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第726話
城崎にそんな顔させたいわけじゃない。
俺はどうしたら正解なんだろう?
城崎にこんな顔させるくらいなら、諦めた方がよかったのか?
俺じゃない誰かと、幸せになる城崎を見ていればよかった?
「先輩…、今なんか悪いこと考えてませんか?」
「え。」
「お願いだから、俺から離れるなんてことだけはもうやめてください。俺、本当に先輩がいないと生きていけない。」
「でも……」
「考えられないんです。先輩がいない未来なんて。」
城崎は俺の目を真っ直ぐ見てそう言った。
吸い込まれそうなくらい綺麗で透き通った瞳。
嘘一つないって、俺に訴えかけるような。
「近…ぃ…」
「あ…。ごめんなさい…!」
我に返ると、キスしそうなくらい近くに城崎の顔があって、俺は咄嗟に顔を逸らした。
城崎も無意識だったみたいで、慌てて俺の肩から手を離した。
「好きです…。愛してます。生涯をかけて大切にするから、俺のそばにいてください…。」
城崎は懇願するように呟いた。
まるでプロポーズのような愛の言葉に、俺の心臓は煩いくらいにバクバクと脈打った。
好き。
俺も城崎のこと、愛してる。
今すぐ伝えたいけど、今伝えたら、俺はまた何も解決しないまま城崎に甘えてしまいそうだ。
言葉の代わりに、城崎の手を両手で握る。
「先輩……」
「…っ」
「抱きしめさせて…?」
指を絡められて、上目遣いでお願いされる。
小さく首を縦に振ると、城崎は俺を優しく、でも力強く抱き寄せた。
無意識に身体が緊張して強張る。
息を整えるために、大きくゆっくりと息を吸うと、城崎の匂いとともに、僅かに煙草の香りがした。
「………煙草の匂いする。」
「えっ?!嘘??」
城崎は慌てて体を離し、自身の体を嗅ぐ。
「……吸ったのか?」
「えー…、あー…、………はい。」
言いづらそうに肯定した。
城崎が喫煙者だと知ったのは、たしか涼真の誕生日…。
城崎のこと、不安にさせた時だった。
「……俺のせいだよな。」
「いやっ…、違いますよっ?!先輩のせいじゃなくて、俺が弱かっただけっていうか…!」
城崎は必死に否定する。
でも、城崎は俺が煙草嫌いだから、今まで煙草吸わなかったって言ってた。
あの時みたいに不安やイライラで突発的に吸ってしまったか、それとも、もう俺のことどうでもよくなったか…。
城崎の態度的に、後者はないと信じたい。
「寂しい思いさせてごめん…。」
「いや…、ほんとに先輩のせいじゃなくて…」
「でも、もう吸わないで。」
城崎には健康で居てほしい。
この先城崎の隣を歩むのが俺じゃないとしても、好きな人には長生きしてほしい。
そう思うのは、当たり前だよな?
「吸わない。約束する。」
「本当…?」
「はい。誓います。」
城崎の目に迷いはなくて、きっと俺のこと好きでいてくれる限りは吸うことはないんだと思う。
「ごめんね、先輩。もう絶対煙草なんて吸わない。不快な気持ちにさせないようにします。」
「うん…」
でも一つ、城崎のストレス発散する方法を減らしてしまったのは申し訳ないと思った。
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