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第728話

この夜から、俺は部屋でマットレスを敷いて一人で寝ることになった。 その代わり、鍵はかけないって約束した。 城崎はベッドを使えばいいのに、「先輩が近くにいるのに、あのベッドに一人で寝るのは寂しい。」と言って、ソファで寝ることにしたらしい。 毎日仕事なのに、ソファなんかで身体の疲れは取れるのだろうか…。 月曜日からは以前のように二人で出勤し、一緒に帰った。 駅から家までの道は、まだ異常に緊張し、城崎と一緒じゃないと通れる気はしない。 また一緒に暮らし始めるようになって、食事も睡眠もしっかり取れるようになってきて、体調はどんどん良くなっていった。 波風を立てないように穏やかに過ごしていたはずなのに、変わったのは水曜日の夜のことだった。 「先輩、どういうことですか?」 「……?」 城崎は悲しげな顔で俺に問う。 一体何のことか分からず、俺は首を傾げた。 「出張のとき…、信じてたのに……。」 「待って。何のこと?」 「自分自身に聞いてみたらどうですか?」 「なぁ、待てって!」 泣きそうな顔で唇を噛んで俺に背を向け、部屋を出て行こうとする城崎の手を掴む。 出張……? 蛇目と行かないでほしいって言ってた。 けどその話はもう終わったことだし、城崎は今更蒸し返すほど分からずやじゃない。 一体何があったのか、全く思い当たることはなかった。 「しばらく一人にしてください…。頭冷やします。」 冷たく離された手。 俺はその場からしばらく動けなかった。 どうして? やっと元に戻れると思ってたのに。 俺のせい? 俺が無意識に城崎を傷つけるようなことしてたのか? 出張のことを思い出しても、城崎にバレて(やま)しいと思う様な出来事は何もない。 強いて言えば、蛇目とお酒を飲んでしまったことくらいか。 でもあいつはすごくいい奴だった。 城崎だって、偏見を捨てて話したら、きっと分かってくれると思う。 それがダメだったのか? 蛇目が俺と飲んだと城崎に言ったとか? でも、帰り道まではいつもの城崎だったのに…。 「城崎……。」 分からない。 城崎がどうして怒っているのか。 理由もなく怒ったりするような奴じゃないことは知ってる。 きっと原因があるのに、どうしても理由がわからなくて、俺は一睡もせずに考え続けた。

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