728 / 1069
第728話
この夜から、俺は部屋でマットレスを敷いて一人で寝ることになった。
その代わり、鍵はかけないって約束した。
城崎はベッドを使えばいいのに、「先輩が近くにいるのに、あのベッドに一人で寝るのは寂しい。」と言って、ソファで寝ることにしたらしい。
毎日仕事なのに、ソファなんかで身体の疲れは取れるのだろうか…。
月曜日からは以前のように二人で出勤し、一緒に帰った。
駅から家までの道は、まだ異常に緊張し、城崎と一緒じゃないと通れる気はしない。
また一緒に暮らし始めるようになって、食事も睡眠もしっかり取れるようになってきて、体調はどんどん良くなっていった。
波風を立てないように穏やかに過ごしていたはずなのに、変わったのは水曜日の夜のことだった。
「先輩、どういうことですか?」
「……?」
城崎は悲しげな顔で俺に問う。
一体何のことか分からず、俺は首を傾げた。
「出張のとき…、信じてたのに……。」
「待って。何のこと?」
「自分自身に聞いてみたらどうですか?」
「なぁ、待てって!」
泣きそうな顔で唇を噛んで俺に背を向け、部屋を出て行こうとする城崎の手を掴む。
出張……?
蛇目と行かないでほしいって言ってた。
けどその話はもう終わったことだし、城崎は今更蒸し返すほど分からずやじゃない。
一体何があったのか、全く思い当たることはなかった。
「しばらく一人にしてください…。頭冷やします。」
冷たく離された手。
俺はその場からしばらく動けなかった。
どうして?
やっと元に戻れると思ってたのに。
俺のせい?
俺が無意識に城崎を傷つけるようなことしてたのか?
出張のことを思い出しても、城崎にバレて疾 しいと思う様な出来事は何もない。
強いて言えば、蛇目とお酒を飲んでしまったことくらいか。
でもあいつはすごくいい奴だった。
城崎だって、偏見を捨てて話したら、きっと分かってくれると思う。
それがダメだったのか?
蛇目が俺と飲んだと城崎に言ったとか?
でも、帰り道まではいつもの城崎だったのに…。
「城崎……。」
分からない。
城崎がどうして怒っているのか。
理由もなく怒ったりするような奴じゃないことは知ってる。
きっと原因があるのに、どうしても理由がわからなくて、俺は一睡もせずに考え続けた。
ともだちにシェアしよう!