730 / 1069
第730話
最悪…。
定時間際に渡された仕事。
これ片付けないと帰れない。
城崎はさすがに手伝ってくれないよな…と俯いていると、突然視界に手が現れて、書類の半分を持っていった。
「っ…!城崎…」
「手伝います。」
「ありがとう…」
怒ってるはずなのに、すごく優しい。
お互い一言も喋らないこの空気はあまり得意ではないけれど、それでも城崎がそばに居てくれるだけで嬉しかった。
城崎のおかげで2時間ほどで終わり、荷物をまとめて帰り支度をする。
こんな大事な書類、何で定時間際に持ってくるんだよ。
城崎いなかったら終電コースだった…。
「手伝わせて悪かったな…。」
「いえ…。どうせ部長がまた定時ギリギリに持ってきたんでしょう?」
「ご名答…。」
明日さすがに部長に言おう。
これはブラックだ…。
「先輩、帰りましょう。」
「うん…」
口数は少なくて、多分まだ怒ってるんだろうけど、城崎は俺を拒絶したりはしなかった。
駅に着いて、家まで歩く道はちゃんと手を繋いでくれる。
無言で不安になるけど、でもしっかりと握りしめてくれる優しい手。
でも、マンションに着いてすぐ、その手は離されてしまった。
「城崎……」
「……なんですか?」
「ごめん…。」
家に入って、すぐに謝った。
城崎は振り返って俺を見つめる。
理由……だよな、俺がわかってるかどうかって…。
「城崎が怒ってるの、蛇目と飲んだからだよな…?」
「飲んだんですか。」
「え。」
違うのか??
というか、俺今すげー余計なこと……。
「つい最近お酒で失敗したのに、遠方で、ましてや蛇目さんの前で酔ったんですか?」
「あ、あの…」
城崎の目に怒りの色が見えた。
怒ってる…。
当たり前だ。
俺は酔い潰れてゲイタウンに行き、ゲイバーに入って誰でもいいからと抱かれようとしていたんだから。
城崎が来なかったら、本当に危なかったのに。
危機感がなさすぎると思われて当然だ。
「先輩、俺が先輩のこと好きだからって、何でも許すと思ってませんか?」
「そんなわけないだろ!」
「じゃあなんで…?俺、本当に心配で心配でたまらなくて……。先輩は俺の気持ち考えたことありますか?」
城崎の声は震えていた。
怒りなのか、悲しみなのか、それとも呆れなのか。
俺の馬鹿…。
これ以上、城崎に嫌われるようなことしてどうすんだよ…。
ともだちにシェアしよう!