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第730話

最悪…。 定時間際に渡された仕事。 これ片付けないと帰れない。 城崎はさすがに手伝ってくれないよな…と俯いていると、突然視界に手が現れて、書類の半分を持っていった。 「っ…!城崎…」 「手伝います。」 「ありがとう…」 怒ってるはずなのに、すごく優しい。 お互い一言も喋らないこの空気はあまり得意ではないけれど、それでも城崎がそばに居てくれるだけで嬉しかった。 城崎のおかげで2時間ほどで終わり、荷物をまとめて帰り支度をする。 こんな大事な書類、何で定時間際に持ってくるんだよ。 城崎いなかったら終電コースだった…。 「手伝わせて悪かったな…。」 「いえ…。どうせ部長がまた定時ギリギリに持ってきたんでしょう?」 「ご名答…。」 明日さすがに部長に言おう。 これはブラックだ…。 「先輩、帰りましょう。」 「うん…」 口数は少なくて、多分まだ怒ってるんだろうけど、城崎は俺を拒絶したりはしなかった。 駅に着いて、家まで歩く道はちゃんと手を繋いでくれる。 無言で不安になるけど、でもしっかりと握りしめてくれる優しい手。 でも、マンションに着いてすぐ、その手は離されてしまった。 「城崎……」 「……なんですか?」 「ごめん…。」 家に入って、すぐに謝った。 城崎は振り返って俺を見つめる。 理由……だよな、俺がわかってるかどうかって…。 「城崎が怒ってるの、蛇目と飲んだからだよな…?」 「飲んだんですか。」 「え。」 違うのか?? というか、俺今すげー余計なこと……。 「つい最近お酒で失敗したのに、遠方で、ましてや蛇目さんの前で酔ったんですか?」 「あ、あの…」 城崎の目に怒りの色が見えた。 怒ってる…。 当たり前だ。 俺は酔い潰れてゲイタウンに行き、ゲイバーに入って誰でもいいからと抱かれようとしていたんだから。 城崎が来なかったら、本当に危なかったのに。 危機感がなさすぎると思われて当然だ。 「先輩、俺が先輩のこと好きだからって、何でも許すと思ってませんか?」 「そんなわけないだろ!」 「じゃあなんで…?俺、本当に心配で心配でたまらなくて……。先輩は俺の気持ち考えたことありますか?」 城崎の声は震えていた。 怒りなのか、悲しみなのか、それとも呆れなのか。 俺の馬鹿…。 これ以上、城崎に嫌われるようなことしてどうすんだよ…。

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