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第734話
ほぼ無言のまま休憩が終わり、デスクに戻る。
部長が近づいてきて、俺はまた仕事を増やされるのかとビクビクしていると、何故か頭を下げられた。
「望月、昨日は悪かった!」
「へ……?」
「前も、その前も…。望月は仕事が丁寧で早くて、それに頼みやすいから、ついつい頼んでしまった。お前がそんな遅くまで残ってるなんて知らずに…。すまなかった。」
急に何…?
困惑していると、後ろから城崎の声がした。
「もう望月さんにばっかり仕事押し付けないでくださいね。」
「城崎っ?!」
部長は「城崎もありがとな。」と言って戻って行った。
えぇ、何それ……。
俺のために部長に言ってくれたってこと…?
「城崎…、ありがとう…。」
「先輩も。簡単に引き受けちゃダメですよ?」
「うん。気をつける。」
良くないことはきちんと良くないと言える。
当たり前のことのはずなんだけど、それって意外と難しい。
それを上司に対して堂々と言えるなんて、やっぱりすごいと思う。
城崎がキラキラして見えて、じっと見つめていると、城崎はニヤニヤと笑った。
「惚れちゃいました?」
「っ?!///」
「冗談ですよ。からかってすみません。」
城崎はチュッと耳元でリップ音を鳴らして、自分のデスクに戻って行った。
………熱い。
ずっと惚れてる。嫌いになんてなったことない。
好きだから…、好き過ぎるから、その分たくさん傷ついたし、傷つけた。
これ以上溺れたくないのに、もっともっと好きになってしまう。
「主任、……って、上の空ですね。」
「固まってんじゃん。おーい、綾人。綾人〜。」
名前を呼ばれてハッとすると、涼真と蛇目が俺に書類を差し出していた。
慌てて受け取ると、二人に笑われる。
「綾人、顔真っ赤。」
「えっ?!!」
「しばらく城崎くんのこと見て、可愛らしい顔をされてましたね。」
「蛇目、おまえ綾人にちょっかい出すなよ?」
「柳津さんに言われる筋合いはないですよ。」
顔が赤いことを指摘されて、二人の言い合いを止めるどころではなかった。
ていうか、城崎も城崎だ。
会社であんなことして、バレたらどうするつもりなんだよ…!
俺が顔に出やすいこと知ってるくせに。
キッ…と城崎を睨みつけると、城崎は俺を見てニコニコ笑っていた。
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