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第735話

城崎とまた同棲を再開して一週間。 俺は今日も心療内科に来た。 駅まで城崎に送ってもらって、帰りは新宿で待ち合わせてランチして一緒に帰る予定。 城崎には心療内科のことは言ってなくて、涼真と予定があるって言ってる。 涼真にも口裏合わせてもらってるから、確認とかされてても大丈夫なはず。 受付を済ませてしばらくすると、診察室に呼ばれた。 「望月さん、Aさんとはどうですか?」 先生は柔らかな口調で俺に尋ねる。 ここはやっぱり落ち着く。 最初に来た時よりも、何度か来て慣れてきた今の方が何倍も。 「今のところは順調です…。多分。」 「多分?」 「一回だけ眠剤使いました…。」 「その時は何があって使いました?」 どんな時に不安になるか。 多分先生はそれを知りたくて質問してるんだと思う。 あの時は……。 「帰った初日…、一緒に寝たいって言われたんです…けど……。」 「はい。」 「どうしても…、その……、浮気相手…かわかんないんですけど……、あの人が家にいた時のことが頭から消えなくて……。」 「はい。」 「あの人と一緒にベッドで寝たのかなって思ったら…、どうしても無理で……」 城崎と抱き合って眠れたら、どれだけ安心するだろうか。 きっと俺は深い幸せな眠りにつけるんだと思う。 でも、どうしても那瑠くんの姿が頭をよぎって、今の俺には受け入れられなかった。 「望月さん、無理はしなくていいと思います。」 「はい…。」 「一緒に話したり、食事をしたり、同じ環境で過ごせるようになったのは大きな進歩ですよ。」 「時々…、ハグとかもしてて……」 「いいですね。好きな人とハグすると、世間的には幸せホルモンって言われるものが分泌されるんです。ストレス解消にもなりますし、不安を消したり、免疫を高めたり、色んないいことがあるんですよ。」 そうなんだ…。 たしかに、城崎と離れてから体調悪い。 生活習慣が乱れてたのも大きいと思うけど、もしかして触れられていなくて、幸せホルモンが足りてなかったとか…? 「不安なことがあったら一人で抱え込むんじゃなくて、思い切ってAさんに相談したり、抱きしめてもらってもいいかもしれないですね。」 「変に思われないですか…?突然ハグ…とか……」 「望月さんの話聞いてると、Aさんは望月さんともっと距離を詰めたいと思っていそうですけどね。ハグなんて大歓迎なんじゃないですか?」 「そう…かな……?」 距離置こうとか言っておいて、抱きしめてなんて言ったら矛盾してない? 城崎は優しいから、俺の言うこと拒否したりはしなさそうだけど…。 「一度聞いてみればいいんです。人の心なんて読めないんですから。」 「ふっ…ふふっ(笑)」 「どうしました?」 「心療内科の先生なのに、心読めないなんて言ってるから(笑)」 「いやいや。メンタリストじゃないですから(笑)人の心は読めないから、望月さんにも言語化してもらってるでしょう?」 「たしかにそうですね。」 先生と雑談を交えながら話して、また一週間分処方をもらった。 薬は前に言っていた通り、1日2回に減量。 眠剤一回、しかも原因が分かっての使用であれば問題ないだろうという判断らしい。 薬を受け取って、心療内科を後にした。

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