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第736話

新宿駅の西口交番前。 待ち合わせ場所に着くと、既に城崎が待っていた。 たくさんの女の子に囲まれて…。 「あ!先輩っ!」 ナンパに見向きもせず、真っ直ぐこっちに走ってくる城崎。 何人かは諦めたようだけど、待ち合わせ相手が男の俺だったからか、数人城崎の後をついてきていた。 「城崎…」 「ん?」 城崎は本当に興味ないらしい。 でも優越感よりも嫉妬や独占欲の方が優ってて、俺は城崎の手をギュッと握った。 「えっ!?先輩っ??」 「行こ…。」 「……はいっ!!」 城崎は繋いだ手を恋人繋ぎに変えて、俺の隣にぴったりとくっつくように並んだ。 完全に恋人の距離。 ついてきていた女の子も、俺たちの距離感を見て諦めていった。 「何食いたい?」 「俺は今すっげー気分がいいので何でもいいです♪先輩は?何の気分ですか??」 「和食。」 「じゃあ定食屋にしますか?それともお寿司?あ。最近人気の和食料理屋さんがこの辺にあった気がします!そこにしませんか?」 「うん。任せていい?」 「はいっ♪」 鼻唄を歌い出しそうなほどご機嫌な城崎についていく。 しばらく歩くと、若者が列をなしている小洒落た和食料理屋に到着した。 「並んでますね…。どうしますか?」 「俺はここでいい。城崎は待てる?」 「もちろんです。並びましょうか。」 最後尾に並ぶ。 もう6月の中旬だから、日差しもジリジリと暑くなっていた。 日焼け止め塗ればよかったかな…と空を見上げると、城崎に肩を寄せられて影に入れられる。 「先輩、焼けちゃいますよ。」 「そっち行ったら城崎が焼けるだろ。」 「俺は大丈夫です。先輩は焼けると赤くなるでしょ?去年、痛そうだったから…。」 そんなこと覚えてくれてんの…? たしかに肌は人より少し赤くなるし、焼けたらもちろん痛いけど、別にそこまで敏感肌なわけじゃない。 だから、いちいち覚えてないと思ってた。 「今年はちゃんと日焼け止め塗りましょうね。」 「う…、うん…。」 「先輩の全身、俺が塗ってもいい?」 「……っ///」 周りに聞こえないように耳元で囁かれて、体の温度が上がる。 バカ!!外で何してんだよ…!! 「先輩可愛い…。のぼせそうなくらい真っ赤です…。」 「誰のせいだよ…。」 「俺…?だったら嬉しいな。」 城崎はまた俺の手を握り直して、満足そうに笑った。 なんか城崎、調子取り戻してきてない? 前までの城崎もこんな風に、俺を恥ずかしがらせることばかり言って、赤くなった俺を見て、いつも幸せそうに笑ってた。 「あ。列進みましたよ。先輩、行こ?」 初夏の暑さのせいなのか、それとも城崎が眩しすぎるせいなのか、俺は思考が止まって、ぼーっと城崎を見つめていた。

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