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第740話

青々と生い茂る木々。 さすが田舎の初夏って感じ。 「ただいま…。」 「綾人……!!」 家の引き戸を開けると、母さんがリビングから走って俺を出迎えた。 そう。今日は母さんの方から話したいと連絡があったのだ。 「この前は本当にごめんなさい。無神経なことを言ってしまったって反省してるの。ごめんね、綾人…。」 「うん…。」 「今日は前より冷静だと思うの…。綾人の言いたいこともちゃんと聞く。だけど、お母さんの言うことにも耳を傾けてちょうだい。」 「わかった。」 母さんに中に通され、リビングには父さんも座っていた。 父さんと母さんと向かい合うように座る。 「大翔は?」 「ちょっと出てもらってるよ。帰る前に顔くらい見せてやりなさい。」 「うん。」 初めて両親に告白した時と同じくらい緊張する。 震える手を押さえて、母さんと目を合わせる。 「綾人の今の気持ちを聞かせてほしいの。」 「俺の気持ちは前から変わらないよ。彼と一緒に人生を歩んでいきたい。」 これが俺の気持ち。 城崎と、これからもずっと一緒にいたい。 城崎と笑って、泣いて、喜んで…。 いろんなことを分かち合っていきたいと思うんだ。 「前にお母さんの言ったことはちゃんと理解してるの?結婚もできないし、子どもだってできないのよ?」 「わかってるよ。」 「周りに(おおやけ)にだってできるような関係じゃないし、もしも親しくない人にバレたらあっという間に噂になって、綾人が辛い思いをするかもしれない。」 「覚悟してる。」 男同士なんだ。 分かってる、子どもができないことなんて。 後ろ指を指されるかもしれないことだって、分かってるんだ。 「………母さんは嫌よ。綾人が辛い思いをするのは。」 「大丈夫。」 「別れる気はないの?」 「ない。」 「相手がもし女の人と浮気したら、子どもができるかもしれないのよ?そうなったら、どうしても男のあなたが捨てられちゃうじゃない…。」 「あいつはそんなこと…」 「分からないじゃない、先のことは誰にも。」 母さんの言うことは(もっと)もだ。 城崎はゲイだから、女性とそうなるとは思えない。 だけど、そうなってしまう未来があってもおかしくないと、母さんはそう言いたいのだろう。 もし女の人と関係を持って、子供を授かったら…。 男の俺が捨てられるに決まってる。 「なんで最悪な想定ばっかりするんだよ?」 「綾人に辛い思いをしてほしくないから。」 「もし俺が女性と結婚したって、離婚するかもしれないじゃん。」 「それは……」 「そんなに変?男が好きな息子は気持ち悪い?」 「そんなこと言ってないでしょ!」 「まぁまぁ。二人とも、落ち着きなさい。」 母さんと言い合いになっていると、父さんが間に入って俺たちを止めた。

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