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第741話
父さんに制されて、一旦冷静になる。
母さんも頭を押さえていた。
「綾人…、あなたの気持ちは分かったわ…。でも、もう少し時間を頂戴。」
「まだ認めてくれないの。」
「そんな簡単な話じゃないでしょう?人生を左右する話なんだから…。」
母さんは席を立って、リビングから出ていった。
父さんはドアの方を見ながら、ため息をついた。
「ごめんな、綾人。仕事で忙しい中来てくれてるのに、まともに話も聞いてやれなくて。」
「ううん、いいんだ。諦めずにまた来るよ。家族には認めてほしいし。」
「母さんもな、あれでも綾人の気持ちを汲もうと頑張ってるんだよ。」
「分かってるよ。前まで頑なに否定してたのに、今日は話聞いてくれたし。」
もっと全否定されると思ってた。
そりゃ、認めてもらえないのは悲しいけど…。
城崎との関係も、母さんとの関係も、いい方向に進んでると信じたい。
「綾人、今日は夜食べて帰るのか?」
「ううん。家で恋人が待ってるから。」
「そうか。もう一緒に暮らしてるんだっけか。」
「言ったっけ?」
「正月に帰ってきた時、そんなニュアンスで話してたから。いつから一緒に暮らしてるんだ?」
「去年の俺の誕生日から。向こうが選んでくれたんだ。すげーいい所だよ。角部屋だし。」
「へぇ。じゃあ今度泊まりに行こうかな?」
「それは恥ずかしいからやめて(笑)」
父さんとは普通に話せた。
認めてもらえたら、城崎を連れて実家に顔出しには来ようと思ってるけど、うちに来られるのはまだ恥ずかしいな…。
城崎の話をしてたら、早く会いたくなってきた。
大翔に顔見せたら、すぐにでも帰ろう。
なんて思っていたら、玄関の扉が開いた音がした。
「ただいま〜!あーっ!!兄さんっ♡♡」
「おかえり、大翔。」
「兄さんが出迎えてくれるなんて最高…♡ずっとここにいてくださいっ!」
「それは無理かなぁ…。」
「えーっ!なんでー!!」
相変わらず可愛い弟だ。
小さい時からずっと、兄さん兄さんって後ろをついてきて、可愛くて仕方なかったなぁ。
「そろそろ帰ろうと思ってて。」
「えぇっ?!今帰ってきたばっかりなのに!!」
「東京まで結構かかるからさ。明日は仕事だし…。」
「そうですよね……。」
大翔はしゅん…と子犬のように項垂れた。
うぅ…、それは狡い…。
「また再来週くらいに来るから…。」
「ほんとっ?!」
「た、多分……。」
「絶対来てくださいねっ!待ってます!!」
大翔と約束して、俺は実家を出た。
城崎に駅に着く時間をメールして、都心に入るまでの数十分だけ眠ろうと目を閉じる。
うとうとしていると、車内アナウンスが東京に到着したことを知らせた。
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