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第742話

電車を乗り継いで最寄り駅に着くと、改札を出たすぐそばで城崎が柱に寄りかかって待っていた。 「城崎…っ」 「あ。おかえりなさい、先輩。」 駆け寄ると、城崎は嬉しそうに笑って俺の手を握る。 なんか少しだけ慣れてきた。 城崎に触れられることにも、外でこういうことするのも。 「帰りましょうか。」 「うん。」 「先輩が元気そうでよかったです。」 「心配かけるようなこと言ってごめんな。」 「ううん。先に言ってくれてた方が、気づけるから。」 家を出る前にあんなこと言ったから、気にさせてたみたいだ。 もし今日も母さんにズタボロにされてたら、泣いて帰ってきてたかもしれない。 そんなことになってたら、城崎はすげー心配してたんだろうな。 「今日の夕飯は?」 「今日は焼き鳥です。俺が串うちしたんですよ。先輩の好きな部位多めにしました♪」 「楽しみ。」 「今日はビールも買っておきました。度数低めのチューハイも買ってあるんで、好きなの飲んでくださいね。」 「あぁ…。」 焼き鳥にビール。 すげーそそられるんだけど、薬飲んでるからお酒は…。 城崎には言ってないから、普段お酒飲みたがる俺がいらないって言ったら心配かけるかな…? 「お酒は…ほら、反省してるから…。」 「今日は俺と二人きりだからいいですよ。」 「でも…」 「そんなに反省してくれてるんですね。」 「そりゃそうだろ…。」 城崎に本気で嫌われるかと思ったし…。 だから今日は飲まない。 飲みたいけど…、薬もあるから…。 「焼き鳥食べて、目の前で俺が飲んでたら飲みたくなるんじゃないですか?」 「城崎は飲むのかよ。」 「先輩が我慢するなら我慢してもいいですけど?」 「…………ダイジョウブ。」 「カタコトになってますけど(笑)」 薬を飲んでるわけでもなければ、お酒で失態を犯したわけでもない城崎の焼き鳥ビールコンボを止める権利は俺にはない。 目の前で飲まれると我慢できる気がしないけど…。 「まぁ飲みたくなったらどうぞ。久々に酔って可愛くなる先輩も見たいし?」 「かっ…?!可愛くないから!!」 「さぁ、早く帰りましょ〜♪」 「もう!待って!」 城崎は俺を揶揄って、楽しそうにスキップしていた。 俺も城崎も、最近笑顔が増えたと思う。 自分でもわかる。 元に戻れるのは、もうすぐなんだって。 だってこんなにも城崎が好きで、愛しくて、家族ともうまくいきそうで、不安定だったメンタルも安定してきたし。 「焼き鳥楽しみだな♪」 「はいっ♡」 城崎につられて、俺も嬉しくなった。

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