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第744話

風呂から上がると、城崎は珈琲を淹れて待ってくれていた。 「先輩、どうぞ。淹れたてなので、まだ温かいですよ。」 「あ、あぁ…。」 向かい側に座ると、城崎はそっと俺の手に触れた。 「っ…!」 身体がビクッと震える。 あの写真のせいで気持ちが動揺してる。 頭の中が不安でいっぱいになる。 また城崎と触れ合えなくなるの? また城崎と話せなくなるっていうのか? 「先輩……」 「だ、大丈夫…!触っていいから…」 「ううん…。無理してるでしょ、先輩。」 だって、やっと治ってきたと思ったのに。 こんな嫌がらせ一つで、俺の身体はまた城崎を拒絶しようとする。 悔しい。 どんなに城崎を信じようと思っても、心のどこかで俺は怖がっているんだ。 城崎の気持ちを信じてやれてないようで、そんな自分が嫌になる。 「今日は俺、ソファで寝ますね。」 「え…」 「先輩のこと心配だけど、体に負担かけたくない。」 城崎は優しく俺にそう言ったが、眉が下がっていた。 傷つけてる。 きっと、俺の体が城崎を拒否したからだ。 俺のわがままで城崎に嫌な思いをさせるのは望んでいない。 「……わかった。」 「おやすみなさい、先輩。」 城崎はソファで横になった。 あの写真のこと、城崎に言うべき…? でも、俺が城崎の立場だったら嫌だ。 昔の自分と元恋人の事後の写真を、今の恋人に突きつけられるなんて…。 城崎だってきっとそう。 だから、これは俺が見なかったことにすればいい。 忘れて何もなかったように振る舞えば、きっと元に戻れるんだから。 リビングの電気を消し、自分の部屋に入って、薬ケースを開ける。 眠剤を1錠飲み、無理矢理眠りに就こうとした。 あまり寝付ける気がしなくて、抗不安薬をもう1錠取り出す。 大丈夫。大丈夫…。 だって前まで1日3錠飲んでた薬だから…。 昨日の定期受診から1日2回に量を減らした。 数戻してもいいよね…? 今は2錠じゃ無理だ。 なくなる前に受診して、薬を処方してもらわないと…。 シートから粒を出して、ごくんと飲み込む。 薬を飲んだら少しだけ気持ちが落ち着いて、数時間だけ眠りにつくことができた。

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