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第746話

「風邪引きますよ…。」 「………ごめ…なさぃ…。」 「先輩、昨日帰ってからなんかおかしい。何かあったの?教えて?」 城崎を巻き込みたくない。 あの写真を城崎に見せたくない。 城崎があの男の人たちを思い出すのが嫌。 俺以外と体を交えた記憶を、少しでも思い出して欲しくなかった。 「……嫌。」 「先輩……」 「……俺だけがいい。城崎は俺だけ見てて…。」 わがままを言ってるのは分かってる。 でも、誰にも城崎を渡したくない。 俺だけを愛して、俺だけを見ていてほしい。 こんな独占欲バレたら、幻滅されるかもしれないのに…。 震える手で城崎を抱きしめると、城崎は俺の手を解き、優しく俺の両頬に触れて真っ直ぐ俺を見つめた。 「出会った時から、俺には先輩だけです。」 「〜〜っ」 「愛してます、誰よりも。だから守りたいし、幸せにしたい。」 穏やかな声色で、優しい力で、城崎は全部で俺を包み込んでくれた。 好き……。 愛してる。 城崎を、誰よりもずっと。 安心したおかげか少しずつ過呼吸も落ち着き、頭が現実に戻り始める。 「ご、ごめんっ…!」 「なんで謝るんですか?」 「だって…、城崎びちょびちょだし…。」 俺を抱きしめたせいで、城崎は服もびちょびちょだった。 これじゃあ俺じゃなくて、城崎が風邪引いちゃうじゃん…。 「最近の先輩は謝ってばっかり。俺は"ごめん"じゃなくて"ありがとう"とか"好き"とか、そう言ってくれた方が嬉しいんだけどなぁ…。」 「ごめん…。………あ。」 言われたそばから謝ってしまった。 城崎は苦笑して、俺の髪を撫でる。 「謝ってばかりいると、ネガティブになっちゃいませんか?悪いと思ってるから謝るんでしょ?俺、先輩に謝られるようなことされてないし。」 「でも……」 迷惑ばかりかけてる。 それを分かってるから、どうしても自分に引け目を感じてしまう。 "ありがとう"を言えないでいると、頬をむぎゅっと摘まれた。 「リピートアフターミー。ありがとう。」 「……ありがとう。」 「よくできました。」 復唱しただけなのに、城崎は嬉しそうに笑って俺の髪を撫でた。 城崎は「つめた〜」と言いながら服を脱ぎ、シャツを着る。 「話せそうならちゃんと教えてくださいね?」 「………うん。」 「はい。じゃあ今日もお仕事頑張りましょう!」 城崎は笑ってそう言った。 城崎の明るさに助けられて、俺は重い腰を上げて、なんとか仕事に向かうことができた。

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