754 / 1069

第754話

薬が減量されてからも、体調はすこぶる良かった。 食事や睡眠ももちろんだけど、城崎との触れ合う時間は日に日に増えてきていた。 それに、駅から家までの道も、もう一人で歩けると思う。 まだ試してはないけど、震えたりもしないし、恐怖心は完全になくなった。 まるで元に戻ったんじゃないかってくらいに、俺と城崎の生活は色を取り戻した。 「先輩、眠い?」 「うん…」 城崎に後ろから抱きしめられて、ソファでテレビを見ていたら、いつの間にか寝てしまっていたらしい。 城崎は俺を抱き上げて、俺の部屋に連れて行く。 マットレスに下ろされて、城崎も隣に横になった。 「城崎……」 「ん〜?」 「俺……、二人のベッドで…、寝れるかも…。」 「えっ!?本当っ!?」 城崎はガバッと起き上がって、目をまん丸にして俺に聞いた。 大丈夫……。 城崎は俺だけって言ってる。 ずっと言い続けてる。 あの日、家から那瑠くんが出てきたのは、シャワーを貸してただけかもしれないし…。 うん、きっとそう…。 城崎が浮気なんて…、しない……。 「先輩、無理してる…?」 「え?」 「表情暗くなった…。嫌ならいいんです。……ほら!それにこのマットレスだったら、狭いから先輩とくっつけるし!」 「でも…」 「大丈夫。明日も仕事だし、いきなり変えたら寝れないかもだし?今日はここで寝ましょ?」 城崎はそう言って、布団の中に戻った。 自分で言い出したのに、城崎にそう言われてほっとした。 城崎が浮気したとは全く思わなくなったけど、やっぱり不安。 せっかく元に戻ってきたのに、また震えが出現したらと思うと…。 「ごめん…。」 「なんで謝るの?それより今日も……、いい?」 「うん…。」 城崎は俺の首筋にキスをした。 最近の習慣。 手とか足とか、あと髪とか耳とか。 城崎が寝る前にキスしてくれる。 少しずつ俺の体が慣れるように、唇以外のところで試してくれてる。 今のところは大丈夫そう。 「早く唇にしたいな…。」 「ん…、ごめんね…。」 「ううん、今でも十分幸せですよ?」 城崎は俺のペースにばかり合わせて、きっとたくさん我慢させてる。 キス……、思い切って俺からしてみようかな…。 でも、城崎って絶対触れるだけのキスじゃ終わんないよな…。 もし体が拒否して、城崎を突き飛ばしたら…? 考えれば考えるほど、治療が終わってから…なんて待たせることばかり考えてしまう。 申し訳なくて気の利いた返事をすることができなかった。

ともだちにシェアしよう!