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第757話
「百合、見なさい。好きな相手のことを話す時の綾人の表情。」
父さんは母さんにそう言った。
母さんは俺の手を優しく包んだ。
「ほんとね…。私が間違ってたのね。頭ごなしに否定して…。」
「母さん…。」
「ごめんなさい、綾人。親である私が綾人の幸せを邪魔するなんていけなかったわ…。本当にごめんなさい。」
母さんは泣いていた。
本当にごめんねと。
何度も俺に謝った。
「俺の方こそ、ごめんなさい。孫の顔見せられないの、悪いと思ってる。」
「あなたの人生だもん。孫がほしいなんて私のエゴよ。本当はそんなのどうだっていい。綾人が幸せでいてくれたら、それが私たちの幸せよ。」
「母さん…」
認めてくれた。
やっと俺たちの関係を認めてくれたんだ。
俺も嬉しくて涙を流していると、父さんが俺と母さんを見て笑った。
俺と母さんもお互いを見合って、涙でぐちゃぐちゃな顔を見て笑いあった。
よかった。
また父さんや母さんと一緒に笑えて。
大切な家族、大切な恋人、どちらかを選ぶなんて俺にはできなかったから…。
母さんはハンカチで涙を拭って、キッチンへ向かった。
父さんと俺、それから自分の分のお茶を注いでくれた。
居間のソファに座って、母さんは俺に尋ねた。
「綾人の彼氏、お名前はなんて言うの?」
「城崎夏月。」
「素敵な名前ね。もし綾人と城崎くんが結婚するってなったら、どっちの名字になるのかしら?」
「えー…?年上だから俺?望月夏月?語呂悪いな。」
「城崎綾人の方が語呂は良いわね。」
「ていうか、気が早いんだよ…。つい最近まで否定してたくせにさー?」
「ふふっ。だって城崎くんの話なら、綾人がよく笑うし、よく喋るんだもの。」
母さんは嬉しそうにそう言った。
俺のバカ。顔に出過ぎだろ。
「お盆の帰省は城崎くんも連れておいでね。もちろん都合が合うならだけど。」
「うん。誘ってみる。」
「楽しみだわぁ。どんな好青年が来るのかしら?」
「言っとくけど、ビビるくらいイケメンだから。」
「え〜?楽しみになってきちゃった。」
母さんは嬉しそうだ。
なんたって、母さんはアイドルのファンクラブとかたくさん入会してるくらいにはイケメン好きだからな…。
「いきなり連れてきたら、大翔がびっくりするかな?」
「しばらくは恋人ってことは隠してていいんじゃないかしら?」
「まぁそれもそうか。」
「ねぇ、城崎くんの写真はないの?」
「内緒。お盆連れてきたときにびっくりさせたいし。」
「綾人がハードル上げすぎて、城崎くん可哀想。」
「上げたくらいが丁度いいんだよ、あいつは。」
多分母さんが思ってる以上にイケメンだから。
母さんと話し込んでいたら、もう17時を過ぎていた。
大翔は今日俺が来ることを知らなくて、まだ学校で自習しているらしい。
「じゃあ帰るね。」
「またいつでもおいで。次は城崎くんと一緒にね。」
「わかったわかった。父さんも、わざわざ休みの日にありがとう。」
「……母さんが惚れない程度のイケメンにしてくれよ。」
「ぷっ…(笑)保証はできないや。じゃあね。」
俺と母さんの会話に聞き耳立てて、ひっそりと嫉妬していた父さん。
俺は久々に笑顔で実家を後にした。
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