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第767話

「おはよ、先輩♡」 「お…はよ……」 翌朝、城崎はいつも通りだった。 俺をぎゅっと抱きしめて、布団から出て朝ごはんの準備をする。 まるで昨日のことがなかったみたいに。 「城崎…、昨日……」 「あーあー。いいんです。言わなくて。どうせ謝ろうとしてるんでしょ?聞き飽きました。」 「でも…」 「でもじゃない。」 ドンっと目の前に朝食を置かれる。 フレンチトースト…。美味しそう…。 「昨日は俺の手が早かったのが悪いんです。先輩はなーんにも悪くない!だから謝らないでください!」 「………うん。」 「暗い顔しないで?俺、先輩の笑った顔が好き。」 「うっ…、いひゃい……。」 ぐにーっと両頬をつままれる。 つい最近もこんなことされたような…。 「先輩、変な顔。」 「わ、笑うな!おまえがしたんだろ!」 「あはは!もー、ほら。早く食べて、仕事行きましょ?」 城崎の明るさに救われた。 家を出る前に、ぎゅーっと抱きしめ合って、お互いのエネルギーチャージ。 「帰りまで耐えられるかな〜…。」 「城崎、今日営業の後直帰だっけ?」 「そうなんですよぉ…。職場戻って先輩と帰りますけどぉ…。」 「いいよ、出先から家のが近いだろ?」 「先輩と帰りたい…。」 「美味い飯作って待っててよ。早く帰れる分、うんっと手込んだやつ。」 「も〜〜。先輩にお願いしたら断れないです…。」 城崎はブツブツ独り言を言いながら、スマホで夕食のメニューを考え始めた。 直帰しろと言った理由は、今日もAquaに寄って帰るつもりだからだ。 那瑠くんと会えるかな…。 城崎はもう会わなくていいように誓約書も書かせたって言ってたけど、多分それじゃダメなんだ。 俺自身が向き合って、あの子にちゃんと言わないと…。 そうじゃないと、俺はきっと乗り越えられないんだと思う。 「ねぇ、先輩は何が食べたい?」 「へ?」 「夜ご飯。言っておきますけど、何作るか考えるのだって大変なんですからね?」 「あぁ、ごめんごめん。うーん…、じゃあ唐揚げとか?」 思いつきでそう言うと、城崎はパッと表情を明るくした。 「久々にいいですね!じゃあ今夜は唐揚げにしましょう♪」 「うん。楽しみにしてる。」 「ていうか、唐揚げなら下味つけてから家出ればよかった…。ミスった…。」 「じゃあチキン南蛮とか?」 「……そうします!!」 嬉しそうな城崎を見ていると、俺も昨日のことを少し忘れることができた。

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