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第768話
水曜日の夜。
今日も言い訳をして、城崎に内緒でAquaに行ったけど、結局昨日も今日も那瑠くんには会えなかった。
昨日はプチ残業してたって言ったから言い逃れできたけど、今日は結構しつこく聞かれたなぁ…。
「明日は一緒に帰るんですからね!」
「わかったってば。」
「隠し事されたら心配なの、先輩だって同じでしょ?」
「そうだな。悪かった。」
城崎は夕食を食べ終えた後も、ずっとこの調子。
よほど俺のことが心配らしい。
嬉しいけど、過保護っていうか…。
「なぁ、城崎。一応俺、もう30なんだけど。」
「知ってますよ、そんなこと。」
「そんなに心配されるような年齢じゃないっつーか…。」
「心配させるようなこと繰り返してる大人に言われたくありませーん。」
言わせておけばこいつ…。
と思う反面、心配させてるのは事実だから言い返せない。
「風呂入ってくる。」
「あ。逃げた。」
居た堪れなくなって、リビングから脱走した。
つい最近も、触れられるの拒否してしまったり、城崎のこと不安にさせてしまったし、あまり強くも言えないんだよな。
あいつのこと安心させるためにはどうしたらいいんだろ…。
湯船に浸かりながら、そんなこと考えてると、ある物が目に入る。
「…………。」
シャワーチェアに座り、それを手に取る。
俺が右手に取った物…、剃刀 だ。
ごくんと唾を飲み込み、泡立てた陰部へそれを添えた。
ジョリ……
ジョリジョリ……
最近触れられなくて伸びていた毛。
無惨にもそれは剃刀によって姿を消した。
今までは城崎に半ば強制的にされていたこの行為、自分でやるのは惨めすぎる…。
でもこれも城崎のため…。
城崎のために無くしたって知ったら…、喜ぶと思って…。
「先輩…?なんで泣きそうなの?」
風呂から上がると、俺の表情を見て城崎は不思議そうにそう聞いた。
まさか自分で大事なものを無くしたとは言えず、無言で首を振って、ソファに座る城崎の上に跨る。
「え。なになに?何のドッキリ?可愛いですけど…。」
「今は黙って抱きしめられてて…。」
「了解デス…。」
城崎は素直に黙って、しばらく俺に抱きしめられてた。
心臓の音、心地良い。
その後城崎は風呂に入ってから、何故か異様にご機嫌で、いつも以上に甘えただった。
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