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第769話

木曜日になった。 朝から城崎はべったりと俺の隣をキープしている。 どうやら離してくれる様子はなさそうだ。 「なぁ、城崎…。いつまでそうしてるつもり?」 「だって、目を離したら俺を置いて帰っていっちゃいそうだから。」 「まだ定時じゃないのに帰るわけないだろ?」 「でももう15時だから。今目を離して逃げられたら、今日一日の努力が水の泡じゃないですか。」 まさか、こんなに監視されるとは…。 うーん…。どうしよう…。 「隙があれば今日も一人でコソコソどっか行くんでしょ?」 「………まぁ、そうだけど。」 「ほらね。」 「そんなに俺が信用ならない?1人で行っちゃダメ?」 「信用はしてます。でも心配の方が強いんです。どこに行くかも教えてくれないし…。」 だって、言ったら絶対城崎ついてくるじゃん。 城崎いたら、那瑠くんからすればいい気はしないよな…。 マウント取ってるみたいだし。 いや…、いいのか? 城崎の彼氏は俺だもんな…。 あれ?そもそも城崎いたらダメなのか? 考えれば考えるほど、よく分からなくなってきた。 「逆に聞きますけど、俺がいちゃダメな理由ってなんですか?」 「うーん……。今それを考えてるんだけどさ…」 「ないなら一緒に行かせてくださいよ。納得できる理由なら諦めもつきますけど。」 「城崎が納得できる理由を言える自信がない。」 「じゃあ俺もついていきます。」 城崎がついてくるのがダメな理由…。 子どもの喧嘩に片方だけ親連れてくるみたいな。 それって卑怯じゃね? 恋人のいざこざだからそういうことではないのか…? あー、よくわかんねぇ…。 頭を悩ませていると、定時まであと15分。 城崎、連れていきたくないなぁ…。 一人で誰に会おうとしてたかバレたら、絶対怒るよな…。 「城崎〜。F社からお前宛に問い合わせの電話来てるぞ。対応できるか?」 「えっ?!」 「なんだ?手、空いてるじゃないか。頼んだぞ。」 「ちょ、部長!待って……!」 城崎は電話対応を押し付けられた。 これは……、チャンスなのでは…? 「城崎、頑張って。」 「は?もしかして帰る気?」 「おーい、城崎!早く出ろ!」 「あーーーっ!もう!!」 城崎は困ったような焦ったような、初めてみる表情をしていた。 時計が定時を指した瞬間、俺は逃げるように会社から飛び出した。

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