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第770話
城崎を撒いて、今日もAquaの前に張り込む。
そもそもここに那瑠くんは来るのか?
城崎を探しにきてたり…なんて思ったけど、実際どれくらいの頻度で来てるかどうかなんて知らないし…。
「もしかして無駄足…?」
「何してんの、おにーさん。」
「?!!」
独り言を呟いていると、後ろから声がした。
この声は……。
「那瑠さん……。」
「知り合いに、最近毎日アンタがいるって聞いたの。本当にいてウケるんだけど。なぁに?もしかして僕のこと探してたの?」
大きな目、綺麗な肌、守りたくなるような華奢で小さな身体。
自信たっぷりで、挑発するような態度。
いざ目の前にすると、やっぱり俺じゃあこの子には勝てないんじゃないかと思ってしまう。
「君に会いに来ました。」
「ふーん。何の用?」
「……俺、覚悟決めたんだ。城崎とこれからも一緒にいるために。」
「…………」
吸い込まれそうなほど真っ直ぐな瞳。
以前言われたことを思い出し、目を逸らしたくなる。
那瑠くんが怖い。
だけど、それでもちゃんと伝えないといけない。
「城崎のこと、本当に好きなんだ。君に言われたとおり、俺は多分、男同士で付き合うことの難しさとか、そういうこと分かってなかった。無意識に偏見を持ってたことも認めるよ。」
「じゃあ…」
「だから、全部ちゃんと考えたんだ。その上で、やっぱり城崎と一緒にいたいって思ったんだ。だから城崎のこと、諦めてください。お願いします。」
那瑠くんに頭を下げた。
諦めるかどうかなんて、そんなの人の勝手だ。
だけど、諦めて欲しい。
無理なお願いだとわかってて、その上で頼みこんだ。
「………ナツのこと、本気だったんだ。」
「え…?」
「んーん、何も。」
那瑠くんがぼそりと小声で何か呟いたのは、俺には聞こえなかった。
聞き返すが、もちろんはぐらかされた。
「あっそ。ていうかさ、お兄さんいいの?」
「何が…?」
「とぼけるんだ?覚えてないの?裸の僕と会ったの。」
「…っ」
那瑠くんの言葉に頭痛がする。
頭の中に蘇る。
いやだ。やめて。言わないで…。
「お兄さんとナツが同棲してる家で、僕とナツ、セックスしたんだよ?アンタそんなとこで過ごせるんだ?すごーい。僕なら絶対無理かも〜。」
「………違う。城崎はそんなこと…」
「あはは。信じたいよね〜。可哀想。」
那瑠くんは楽しそうにくすくすと笑う。
ダメ…。
城崎のこと信じるって決めたのに…。
「まぁ僕と会うか会わないかはナツ次第かなぁ〜。なんかごめんね?わざわざ来てくれたのに。」
「うっ……」
「ちょ、吐かないでよ?吐くなら向こう行って。僕、お兄さんに優しくする義理はないし〜。」
気持ち悪くて、口を手で押さえる。
不安と不快感で涙が止まらなくて、気分が悪い。
蔑むような目で見下ろされ、俺は涙でボロボロになりながら家まで歩いた。
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