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第772話

「ごめん…なさぃ……。」 「やっぱり一人で帰すんじゃなかった。仕事なんかより、先輩を優先するべきだった。」 「違う…。城崎は悪くない…。ごめんなさい……。」 「誰が悪いとかどうでもいいんです。もう…、本当に怖かった……。」 表情は見えないけど、城崎は泣いていた。 声や手が震えてて、申し訳ないことをしたと思った。 俺は不安になるたび、こうして城崎を困らせてしまうのだろうか。 「もう…、俺なんか放っといて…。」 「なんかってなんですか。怒りますよ。」 「だって…。」 「先輩、今すぐ病院行きましょう?吐き出したけど、心配だから。」 「いい…。大丈夫…。」 「俺が不安なんです。ダメ?」 「……行かない。」 城崎からの申し出を断り、また怒られると思ったけど、城崎は優しく俺を抱きしめるだけだった。 ダメな人間だと、自分でも分かってる。 迷惑や心配ばかりかけて…。 なのに、城崎が怒ったのは迷惑かけたからじゃなくて、俺が俺自身を傷つけたからだ。 「ごめんね。赤くなってる…。痛い?」 「ううん…。」 さっき叩かれた頬を、指で優しく撫でられる。 ヒリヒリするけど、きっと叩いた城崎だって同じだけ痛かったはずだ。 城崎は一度部屋から出て行き、保冷剤と温タオル、それに雑巾とビニール袋を持ってきた。 俺の服を脱がせ、温タオルで綺麗に拭いてバスタオルをかけた。 頬を冷やせと保冷剤を渡され、城崎は汚れた床を掃除し始めた。 「………先輩、いつなら話してくれる?」 「え……?」 「先輩が言ってくれるまで待つから。だからちゃんと教えてください。俺、どうすれば先輩が不安にならないか、ちゃんと考えるから。」 「…………」 「お風呂沸かしたから入ってきてください。まずは体温めて、それからご飯食べて今日は寝ましょう?」 「分かった……。」 城崎に言われた通り、風呂に入って体を温めた。 風呂から出ると、食欲がなくても食べやすそうなものが食卓に並んでいて、俺は少しずつそれを食べた。 「どこで寝ますか?」 「俺の部屋…。」 「俺も隣で寝てもいい?」 「………うん。」 ベッドだと眠れる気がしなかった。 また嫌な想像をしてしまいそうだったから。 城崎の服をギュッと握ると、安心させるように抱きしめてくれる。 「おやすみ、先輩。」 「うん……、おやすみ……」 城崎がそばにいると、少しだけ心が穏やかになった。 浮気なんてしてない。 城崎は絶対しない…。 大丈夫…。信じるって決めたんだ…。 耳元で聞こえる城崎の心音に安心して、俺はいつのまにか眠りについていた。

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