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第774話
職場に着いて、顔を合わせるたび、みんなに心配された。
自分では気づかなかったが、どうやら顔色が悪いらしい。
青白くて生気がないと言われた。
昨日の出来事のせいだろうか…。
たしかに元気はないな…。疲れてるし…。
「綾人、大丈夫か?」
「うん…。」
「無理せずに休めよ?今はメンバーみんなノルマ達成してるし、綾人の仕事も手伝えるからさ。」
「ありがとう。大丈夫だよ。」
涼真は何度も声をかけてくれて、結局大した仕事もできないまま昼休みになった。
城崎のそばに居たいけど、どうしても那瑠くんの言葉が蘇る。
絶対に浮気なんてしないって信じてるのに…。
「先輩、今日は外で食べませんか?良さそうなところ見つけたんです。」
休憩時間に入ってすぐ、城崎が俺のもとに来た。
気を遣って、気分転換のためにもそう言ってくれてるんだろう。
そうだよな、切り替えないとダメ…だよな…。
「あぁ…、うん……。」
「食欲ないですか…?」
「あんまり…かな…。」
「…………先輩、ちょっと来て。」
城崎は俺の手を引き、談話室に入ってドアを閉めた。
周りから見えないようにブラインドを閉め、俺を抱き寄せる。
「やっぱり話してほしい…。言いたくない…?」
弱々しい城崎の声。
言えるわけないだろ…。
こんなに愛してくれてるのに、『やっぱり浮気してたのか?』なんて…。
してないって信じてる。
きっと那瑠くんの咄嗟についた嘘だと。
そう思ってるのにこんな気持ちになるのは、きっと俺は心のどこかで"もしかしたら"って思ってるんだ。
何度も何度も、城崎と那瑠くんがキスしていたことを思い出す。
昔二人が体を重ねていたことは事実で、俺なんかよりもずっと前から城崎の温もりを知っていて…。
醜い嫉妬だ。
消せない過去なのも分かってる。
悔しい。辛い。悲しい。
もう今の城崎は俺のものだと、自信を張ってそう言えない自分自身が情けない。
「……ごめん。」
「どうして?話してくれればきっと…」
「ごめん。俺が弱いだけなんだ…。ごめん…。」
城崎はそれ以上聞き出してこようとはしなかった。
ごめんな、城崎…。
俺、ちゃんと信じてるから…。
だから今だけは弱い俺のことを許してくれ…。
結局時間もなくなって、昼は食堂で簡単に済ませた。
城崎はずっと俺のことを気にしてくれていて、申し訳なくて俺は逃げるように資料室に身を隠した。
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