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第775話

資料室で必要な資料を探していると、ガチャ…と扉が開いた。 城崎かと思ってドキドキしながら振り返ると、立っていたのは蛇目だった。 「主任、本当に大丈夫ですか?お顔が真っ青ですよ。」 「大丈夫だよ。心配かけて悪い…。」 「城崎くんとの喧嘩、随分と長いですね。てっきり出張の時はもう仲直りしてるのかと思ってました。」 出張…。 思えばあの時の蛇目の言葉に、俺は本当に救われたんだよな…。 「私に力になれることがあるならお手伝いさせてください。経験だけは多いので、きっと何かお手伝いできると思います。」 「蛇目……」 「よければ明日、私の家に来ませんか?誰かに話を聞いてもらって楽になることもありますよ。」 蛇目に言われて、返答に迷う。 正直、蛇目に話を聞いてほしい。 また、あのときみたいに俺が納得できる正解を、解決できる道を教えてほしい。 だけど、家なんて行ったら城崎がなんて言うか…。 むしろ俺と城崎の関係が悪化するんじゃないか…? 「ごめん…。家はちょっと……。」 「あっ、すみません…。そうですよね。」 「…………」 「公共の場だと、お話ししにくいかなと思いまして…。よくよく考えたら当たり前ですよね。城崎くんと仲直りしたいのに、ゲイの私の家なんて…。」 蛇目は眉を下げてそう言った。 なんか悪いことした気分だ。 蛇目は俺のためを思って提案してくれたのに、俺は酷いこと……。 「………やっぱりお邪魔していいか?」 「え?」 「………家。話したらすぐ帰るけど、やっぱり外じゃ話しにくいし…。」 「えぇ、勿論です!」 少しくらいいいよな…? 話聞いてもらったらすぐに帰るし…。 城崎は嫌かもしれないけど、俺には解決方法が分からない。 蛇目はパァッと笑顔になり、俺にメモを渡した。 どうやら住所らしい。 「いつでもお好きな時間にいらしてください。お待ちしてます。」 「片付けの時間はいいのか?」 「はは。実は趣味が片づけみたいなものでして。いつでも人を呼べるくらいには綺麗にしてますよ。」 「すげぇ。見習わなきゃ。」 笑い話なんかも交えて、多少気分が晴れた。 部署に戻ると城崎は営業に出ていて不在だった。 少しホッとしたような、でも何だか寂しいような、複雑な気持ちだった。 城崎が営業先から帰ってくるのを待って、一緒に家に帰った。 何度抱き合っても、俺の気持ちが晴れることはなくて、同じ布団で横になり、気まずいまま次の日を迎えた。

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