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第776話

土曜日になり、城崎は朝からパンケーキを作ってくれたり、面白そうな映画を見繕ってホームシアターの準備をしてくれたり、俺を元気づけようとしてくれていた。 その気持ちがとても嬉しくて、俺は城崎の好意に甘えてそれらを楽しんだ。 「あんまり面白くなかった?」 「え…?面白かったよ。」 「そう?よかった…。」 映画を一本見終えて、城崎は俺の顔色を伺ってそう言った。 映画は俺好みな内容で面白かったし、城崎の膝の上で見るなんて甘えた行動をとってみたんだけど…。 表情に出ないように取り繕ったつもりでも、やっぱり城崎にはバレてしまうらしい。 「昼ごはんにしましょうか。何食べたい?」 「うーん……」 お腹は空いてない。 でも食べないと、城崎に余計な心配かけちゃうし…。 「冷たいものの方が食べやすいですか?お蕎麦とかどうですか?」 「あっ、それなら食べれるかも。」 「じゃあ決まりですね。」 城崎はさっと茹でた蕎麦を水で締めて、いろんな薬味をテーブルに並べた。 食べられる分だけ食べて、残りは城崎が食べてくれた。 時計を見て、城崎の服の裾を引っ張る。 「城崎…、ごめん。ちょっと用事があって…。」 「何…?どこか行くなら一緒に…」 「本当すぐ帰ってくるから。2時間くらい。」 「どこ行くんですか?」 「………涼真の家。」 「………わかりました。」 城崎は渋々了承してくれたけど、駅までは送るとそれだけは譲らなかった。 嘘をつくのは心苦しい。 だけどこれ以上、城崎と喧嘩するのは嫌。 ごめんね、城崎…。 嘘ついてごめん…。 「いってらっしゃい。」 「いってきます…。」 「迎えに来るから、また連絡ください。遅くなりそうだったら教えて?」 「うん、分かった。」 「気をつけてね。」 抱き寄せられて、頭のてっぺんにキスが落とされる。 それはまるで魔法のように、俺の心を穏やかにした。 改札を通り、いつもと逆側のホームに出る。 蛇目の家は職場から結構離れてる。 駅に着くと、改札を出たところで蛇目が待ってくれていた。 「主任、お疲れ様です。」 「おう…。」 「すぐそこなんです。ついてきてください。」 「あぁ。」 本当にすぐそこだった。 つーか、めちゃくちゃ良い所に住んでんな…。 「稼ぎ頭って凄いんだな…。」 「元ですよ。こっちに来てからは城崎くんがトップですしね。」 「でも凄い…。」 「外よりもきっと、中の方がびっくりされるかもしれませんね。」 蛇目はくすくす笑いながらそう言って、鍵を開けて玄関の戸を開いた。

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