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第779話

電車を降りるとそこは名前も知らない場所で、とりあえずバスに乗って、またボーッとしていた。 俺、何してんだろ…。 気づくと夕方。 人気の無い古びた公園のブランコに座った。 「城崎……っ」 ぼろぼろと溢れる涙を止める術を、誰か教えてほしい。 不安で落ち着かなくて、息も苦しくて、今すぐ城崎に抱きしめてほしいのに、俺に城崎に助けを求める権利なんかない。 城崎の過去に嫉妬して、浮気なんて絶対しない城崎のこと疑って、なのに俺が浮気して…。 城崎を裏切った。 自分のことが許せない。 誰か俺を罰してくれ。 殺して地獄に連れて行ってくれよ…。 「ごめんなさい……。ごめん、城崎……」 謝っても謝っても足りないと思う。 あんなに愛してくれた城崎を裏切るなんて。 城崎の言うことを聞いておけばよかったんだ。 あれだけ蛇目には気をつけろって言われてたのに…。 俺が大丈夫だって判断して、城崎に嘘ついて蛇目の家なんかに上がって…。 あんなことになるなんて思わなかったんだ。 馬鹿だ。 俺は大馬鹿者だ…。 「ごめん…、ごめんなさい…、ごめんなさい……」 誰にも届かない謝罪を言い続ける。 もう戻れないのかな…。 何度も思い出しては、後悔の念に(さいな)まれる。 蛇目の家に行かなければ…。 蛇目に心を許さなければ…。 今更後悔したって遅いのに、もう戻れないって分かってるのに、それでも城崎のことを諦め切れなかった。 完全に陽が落ちて、夜が来る。 東京なら寝苦しいくらいに暑いけど、郊外なのか、それとももっと離れた田舎なのかはわからないこの場所は、肌寒いと感じるくらい空気がひんやりとしていた。 「クシュンッ…」 涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔をティッシュで拭いた。 とりあえず泊まる場所を探さないと…。 スマホは電源を入れたくない。 入れたら、きっと城崎からの連絡に、また心が辛くなってしまうから…。 少し歩くと、古びたビジネスホテルが見えた。 ほとんどの部屋が空いていたので、とりあえず一泊と伝え、支払いするために財布を出して血の気が引いた。 そうだ…。 いつもの財布、家に置いてきたんだった…。 蛇目の家に行くだけだから、手に届くところにあった予備の財布を持ってきたんだ。 帰りの交通費も考えると一泊が限界だ。 とりあえず今日はここに泊まるしかないと、お金を払う。 外見は古いながらも、中は小綺麗にしてあって、居心地は悪くなさそうだ。 地震がきたらいつ崩れてもおかしくなさそうな壁のヒビは気になるけど…。 着替えも持っていないけど、とりあえず穢れた身体を洗いたくて、全身を綺麗にした。 擦っても擦っても汚れが落ちた感じがしなくて、全身赤くなるまで擦り続けた。 皮がめくれたところがヒリヒリする。 でもそんなことも気にならないくらい、今は汚れを落とすことに夢中だった。 「……はぁっ、はぁ…」 朝から薬も飲んでいなくて、気持ちが不安定になる。 バスタオルに身を包んで、ベッドの中で丸くなって息を整えることに集中した。

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