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第782話
暑くて倒れそうだ。
猛暑の中、日差しが照りつける公園。
自分が放つ異臭が凄すぎて、商業施設に踏み入れる勇気はなかった。
それ以前に、周りに商業施設すら見当たらないけど。
「暑……」
昼下がり、なけなしのお金で購入した一本のスポーツ飲料は、もうほとんど空っぽだった。
歩く距離が長くなってもいいから、もう一本買った方が良さそうだ。
倒れたら余計に周りに迷惑かける…。
自販機でスポーツ飲料を購入する。
冷たくて気持ちいい。
頬に当てると、溜まっていた熱がスーッと引いていくのが分かった。
炎天下の中、公園にある土管は唯一の影になっていて、中はひんやりとして気持ちいい。
土管の中で横になり、涼 を納 る。
これ、野宿は無謀かもしれない…。
時期が悪かった。
せめて春秋なら…。
「暑い…。クソ……。」
今日に限って風もなかなか吹かなくて、ジッとしていてもただただ暑さだけが襲ってくる。
暑さにやられて気持ち悪いのか、ストレスからくる気持ち悪さなのか分からない。
頭もガンガンして視界も霞むし、今にも吐きそうだし。
このまま熱中症で死ぬのかな…。
その方がマシかもしれない。
だって今の俺は、まだ城崎の恋人だろ?
好きな人の恋人のまま死ねるなら、それも悪くないな。
俺の人生、きっと悪いものではなかった。
優しい家族に囲まれて過ごして、社会人になって憧れの都会で一人暮らし。
可愛い彼女ができて、同棲だって経験した。
走馬灯のように思い出が蘇ってくるけど、一番幸せだったなって思うのは、やっぱり城崎と出会ってからの日々だった。
告白されて、戸惑ったけど嬉しかった。
城崎との初めてのキスは……、ふふっ。
初っ端から舌入れられたんだっけ?
まだあの時は付き合ってなかったよな。
キスが上手すぎて、すげー興奮して流されそうになったのを覚えてる。
遊び人だったんだなとか、経験が多かったんだ程度にしか思わなかったけど、今考えたらすげーモヤモヤするし。
あの頃は、まさか自分がこんなにも城崎のこと好きになるなんて思わなかった。
今じゃ消せない過去にまで嫉妬して、昔の相手と対面してメンタル崩してこの始末。
嫉妬や独占欲も、ここまでくると病的だよな。
好きすぎて離れることになるなんて。
俺、メンタルは強い方だと思ってたんだけどな…。
実はこんなにも弱かったなんて。
これから一人で生きていくなら、もっと強くならないと。
城崎が俺のことを好きになってくれてよかった。
愛される幸せを、愛することの幸せを、城崎はたくさん教えてくれた。
俺は城崎と付き合ってから、本当に幸せだった。
意識が朦朧として、俺はいつの間にか気を失っていた。
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