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第783話

ものすごい雨音と寒さに目が覚める。 ここは……、あぁ、そうか。 土管の中で横になって…、寝てたのか? やべー…。 視界が揺れてる。 マジで俺死ぬのかな…? 最後に城崎の声、聴きたいなぁ…。 ポケットからスマホを取り出し、電源を入れる。 電源を切ったままだったけど、充電は少し減っていた。 でもまぁ、数時間使えるくらいには残ってる。 100件を優に超える着信履歴。 ほとんどが城崎からのものだった。 その中には数十件か留守番電話も残っていて、俺は音声に耳を傾ける。 『先輩、どこにいますか?!留守電聞いたら電話ください。待ってます。』 『心配です。ご飯は食べられてますか?』 『声が聞きたいです。』 『俺が何か気に障ることしたならすみません。お願いだから電話出てください…。』 『先輩…、お願い。声だけでも聞かせてください…。』 初めは焦ったような声なのに、最新のものに近づくに連れて、声は震えていて、声量も小さくなっていった。 俺を心配した内容ばかりで心が痛くなる。 声だけでも城崎が疲弊しているのは分かって、それが余計に申し訳ない。 残り数件の留守番電話も再生した。 『寂しいです…。先輩に会いたい。』 『声を聞かせて…。一言でもいいから連絡が欲しいです。』 『先輩…、誰よりも愛してます…。』 涙が溢れた。 俺はやっぱり城崎が好きだ。 会いたい。 最後でいいから、城崎に会いたいよ…。 手の震えを抑えながら、発信ボタンを押す。 『先輩っ…?!先輩っ!どこにいるの?!』 電話越しに聞こえてきた焦ったような声。 城崎だ…。 「城崎……」 『先輩っ!どこにいるか教えてください!!』 「ごめん…、城崎…、ごめんなさい…、俺……」 やっぱり無理だ。 城崎を諦めることなんて、俺にはできない。 城崎は俺が蛇目とシたって、きっとまだ知らない。 知ったらきっと、俺に愛想を尽かすと思う。 でも、振られたとしても、城崎のそばに置いて欲しい。 そばに居たい。 『先輩…?何?どうして謝るの?』 「二番目でもいいから、俺をそばに置いて…。お願い…」 『何言って…』 戸惑ったような声。 いきなりこんなこと言われても、困らせてるだけだって分かってる。 ごめん、城崎……。 「好きなんだ……。」 情けなくても、惨めだとしても、それだけは伝えたかった。 城崎のことが好き。 言葉にすると、安心して気が抜けた。 『……それは直接聞かせてください。』 「……………」 『先輩…?先輩っ?!』 手から滑り落ちたスマホから、微かに城崎の声が聞こえる。 もう体力の限界だ…。 『先輩っ、大丈夫?ねぇ、先輩っ!!』 「…城…崎……」 『位置情報送ってください!お願いだから…っ!』 最後に城崎に会えるのかな…? 会いたいなぁ…。 城崎の腕の中は温かくて、心地良い。 霞む視界の中で、スマホの画面をタップした。 位置情報…、送れたのかな…。 わからないけど、もう本当に限界が来て、俺はまた意識を手放した。

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