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第785話
「ここ……」
車が止まって窓の外を見ると、つい最近見た光景。
城崎は不思議そうに首を傾げる。
「……俺が泊まってたとこ。」
「そうなんですか?じゃあ感謝しないとですね。」
城崎は車から降りて、助手席の扉を開けたかと思うと、俺を毛布に包めたまま抱っこした。
ホテルに向かってスタスタと歩き始める。
「城崎…、下ろして…。」
「ダメ。逃げたら困るし。」
「でも、人に見られたら恥ずかしい…。」
「手で顔隠したら?俺は恥ずかしくないし。」
抱っこされてる俺は恥ずかしいんだよ…!
でも歩く体力すら残ってるかと言われれば微妙。
城崎の言う通り、手で顔を隠した。
「すみません。大人二名一泊で、少し広めの部屋空いてますか?」
「はい。少々お待ちください。」
フロントマン、昨日と一緒じゃん。
バレてませんように…。
城崎が支払いをしてくれて、鍵を受け取ってエレベーターに乗る。
部屋に着いてすぐ、俺はベッドに下ろされた。
電気を付いて、初めて気づく。
城崎の服はドロドロで、それに目の下のクマも酷くて、なんだかすごく疲れているようだった。
「どうしたんですか?」
「城崎…ドロドロ……。俺のせい…?」
「あぁ、違いますよ。気にしないでください。」
城崎はそう言ったけど、絶対俺のせいだ。
さっきの公園で抱きしめられた時、城崎座ってたよな…。
雨降った後の公園だから、絶対地面はぬかるんでたし…。
それに、あんなにくっきりクマがある城崎なんて初めて見た。
ずっと俺を探してくれてたのか?
申し訳なくて合わせる顔がない。
「とりあえず、話聞いてほしいからお風呂入りましょう。体綺麗になったら聞いてくれるんでしょ?」
「えっ…?一緒に入るの?」
「当たり前でしょ。そんなボロボロの状態で、一人で入らせるわけないじゃん。」
嘘だろ…?
こんな身体、城崎に見られたくない。
食べてなくてガリガリで、貧相な身体。
城崎はバサッと服を脱ぎ捨てて、俺に近づいてきた。
うわっ、待って…。
目に毒!!
「先輩、脱がせるよ。」
「…っ!」
無理矢理立たされて、服を脱がされる。
俯くと自分のお腹が目に入る。
平ら…というより最早凹んでいて、見窄らしい…。
それにあちこち汚れてて汚いし…。
なのに、めちゃくちゃ視線を感じる。
「そんなジロジロ見んな…。」
「えー…。無理なお願い。」
城崎は俺の腕を引いて浴室に連れ込む。
入浴剤を浴槽に入れると、ブクブクと泡が立ち始めた。
泡風呂だ。
さっさと身を隠したくて浴槽に足を入れると、膝がヒリヒリと痛んだ。
「痛っ…」
「あ……。ごめんなさい。痛みますよね…。」
「大丈夫…。」
城崎に謝られる。
こんなとこ、いつ怪我したっけ…。
血が出てるから、さっき気を失ってたときか…?
「先輩、痛いなら…」
「大丈夫。ちょっと染みるだけ。」
これ以上心配をかけたくなくて、少し染みるのを我慢してお風呂に浸かった。
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