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第793話
那瑠くんは俺を見て、鼻で笑った。
「何?せっかくナツに会えると思って来てみたら、お兄さんもいるんだ。マウント取りに来た感じ?」
「おい。その前に言うことがあるだろ。」
「何もないけど。あ、麗子ママ。僕もなんか飲み物ちょーだい。」
相変わらず余裕な態度で、那瑠くんは俺たちの前に脚を組んで座った。
麗子ママにもらったジュースをストローで吸う。
それだけで絵になる容姿なんて、本当狡いな…。
「今まで先輩に失礼な態度とったこと、あと嘘言ったことも。謝れ。二度とするな。」
「何のこと〜?」
「ふざけんな。先輩をホテルの前に呼びつけたのおまえだろ。意味わかんねぇ過去の写真送ってきたのも。あと、俺の家で寝たっていう意味わかんねぇ嘘も説明しろ。」
「あーあー。全部バレてる。お兄さん口軽〜い。」
「俺が言わせたんだよ。つーか、そろそろマジでキレそうなんだけど。」
城崎、本気で怒ってる…。
顔が超怖い…。イケメンって怒ると怖いんだ。
那瑠くんも、凄みのある城崎の様子に気圧 されているように見えた。
「………んで…」
「あ?」
那瑠くんの声が震える。
声だけじゃない。
唇、指先、それに手も。
カタカタと小刻みに震えていた。
「なんで…っ!なんで僕じゃダメなの?!僕だって好きなのに!!ナツのこと好きなの!なんでお兄さんじゃないとダメなんだよ?!」
那瑠くんは城崎に責められて気持ちが抑えきれなくなったのか、癇癪を起こして泣き叫んだ。
城崎も驚いて固まったが、すぐに真剣に那瑠くんに向き合って返事をした。
「………ごめん、那瑠。お前の気持ちには応えられない。」
「なんで…っ!……ヒック…、僕が先に告 えばよかったの…?」
「違う。もしも先輩と出会う前に那瑠に告白されてたとしても、俺は応えなかった。」
城崎は隣に座る俺の手をぎゅっと握った。
俺にもちゃんと聞いていて欲しいって、そう言われている気がした。
「お前が俺に固執するように、俺だって先輩に固執してる。人のこと言えねぇな…。悪かった。でも俺のことは諦めて欲しい。」
「そんなの……」
「お前があの手この手使って、もし俺が先輩と別れることになったとしても、俺は先輩以外と付き合う気はないから。それだけは言っておく。」
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