794 / 1069
第794話
はっきりと城崎の口から告げられた言葉に、那瑠くんはため息をついて白状した。
「わかったよ……。全部僕がやった…。」
「………」
「昔のナツのセフレから写真を集めて送ったのも僕。ナツを無理矢理ホテルの中に入ってってねだったのも、お兄さんに見せるため。全部ナツとお兄さんを別れさせるためにやった。」
「家でシたってのは?」
「あの日……、ナツは覚えてないかもしれないけど、お兄さんが家から出てくる裸の僕と会った日ね。僕がお兄さんを装ったの。ナツは熱でバカんなってて、僕のことあんたと勘違いして抱こうとしただけ。」
「は?何のこと…」
「あれだけ熱出てたら覚えてないだろうね。インターホン押したら先輩、先輩ってさ。僕のことなんて一切見えてないの。めちゃくちゃムカついた。」
城崎は初めて知ったのか、言葉を失っていた。
俺と勘違いして、那瑠くんのことを抱こうとした…。
それで…?抱いたのか……?
「あー、もう。その顔やめて。ウザい。」
「ご、ごめんなさい…。」
「キスもしてないし、抱かれてもないから。」
「え……?」
あっさりと打ち明けられた事実にポカンとした。
城崎も唖然としていた。
だって、城崎も知らないなら"抱かれた"って言うと思ってたから。
「ナツも知らないなら、事実がどっちでも抱かれたって言うと思ったんでしょ?」
「…………」
「僕のこと馬鹿にしてんの?認知もされてないのに抱かれるとか普通に無理だし。別れさせたくて、あんたがインターホンに映ってたから、勝手に脱いで、事後のフリしただけ。」
那瑠くんはジュースを飲み終え、「ごちそーさま。」と席を立った。
「待って…!」
「何?もういいでしょ。まだなんか用?」
背中を向ける那瑠くんを呼び止める。
「お、お礼が言いたくて…。」
「は?」
声が震える。
頑張れ。頑張れ、俺…。
「那瑠さんのやったことは、正直すごく傷ついたし、辛かった……。城崎のことが好きだとしても、やり方は間違ってると思う…。けど、俺に言ってくれたことは、今の俺に足りないことでもあったと思う。……城崎と生きていく上で、俺は何も覚悟できてなかった。」
「…………」
「那瑠さんのおかげで両親に向き合えたし、セクシャルマイノリティについて改めて深く考えることができた。だから……、ありがとうございました。」
那瑠くんのことは苦手だけど、この気持ちは本当。
いつか向き合わなければいけないことに、俺はずっと目を背けていた。
那瑠くんに言われなきゃ、親に打ち明けるのはもっと先だったかもしれない。
後回しにして、母さんとの仲ももっと拗れていたかもしれない。
城崎と外で堂々と手を繋いだりできるようになったのも、自分自身への偏見をなくすことができたからだ。
だから、そのお礼だけは言わなきゃいけないと思った。
ともだちにシェアしよう!