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第794話

はっきりと城崎の口から告げられた言葉に、那瑠くんはため息をついて白状した。 「わかったよ……。全部僕がやった…。」 「………」 「昔のナツのセフレから写真を集めて送ったのも僕。ナツを無理矢理ホテルの中に入ってってねだったのも、お兄さんに見せるため。全部ナツとお兄さんを別れさせるためにやった。」 「家でシたってのは?」 「あの日……、ナツは覚えてないかもしれないけど、お兄さんが家から出てくる裸の僕と会った日ね。僕がお兄さんを装ったの。ナツは熱でバカんなってて、僕のことあんたと勘違いして抱こうとしただけ。」 「は?何のこと…」 「あれだけ熱出てたら覚えてないだろうね。インターホン押したら先輩、先輩ってさ。僕のことなんて一切見えてないの。めちゃくちゃムカついた。」 城崎は初めて知ったのか、言葉を失っていた。 俺と勘違いして、那瑠くんのことを抱こうとした…。 それで…?抱いたのか……? 「あー、もう。その顔やめて。ウザい。」 「ご、ごめんなさい…。」 「キスもしてないし、抱かれてもないから。」 「え……?」 あっさりと打ち明けられた事実にポカンとした。 城崎も唖然としていた。 だって、城崎も知らないなら"抱かれた"って言うと思ってたから。 「ナツも知らないなら、事実がどっちでも抱かれたって言うと思ったんでしょ?」 「…………」 「僕のこと馬鹿にしてんの?認知もされてないのに抱かれるとか普通に無理だし。別れさせたくて、あんたがインターホンに映ってたから、勝手に脱いで、事後のフリしただけ。」 那瑠くんはジュースを飲み終え、「ごちそーさま。」と席を立った。 「待って…!」 「何?もういいでしょ。まだなんか用?」 背中を向ける那瑠くんを呼び止める。 「お、お礼が言いたくて…。」 「は?」 声が震える。 頑張れ。頑張れ、俺…。 「那瑠さんのやったことは、正直すごく傷ついたし、辛かった……。城崎のことが好きだとしても、やり方は間違ってると思う…。けど、俺に言ってくれたことは、今の俺に足りないことでもあったと思う。……城崎と生きていく上で、俺は何も覚悟できてなかった。」 「…………」 「那瑠さんのおかげで両親に向き合えたし、セクシャルマイノリティについて改めて深く考えることができた。だから……、ありがとうございました。」 那瑠くんのことは苦手だけど、この気持ちは本当。 いつか向き合わなければいけないことに、俺はずっと目を背けていた。 那瑠くんに言われなきゃ、親に打ち明けるのはもっと先だったかもしれない。 後回しにして、母さんとの仲ももっと拗れていたかもしれない。 城崎と外で堂々と手を繋いだりできるようになったのも、自分自身への偏見をなくすことができたからだ。 だから、そのお礼だけは言わなきゃいけないと思った。

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