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第795話

「……なんなの、本当。」 「へ、変なこと言ってごめん…。」 「なんでお兄さんが謝んの。……悪いことした。意地悪なことばっかり言ってごめん。」 「え…。」 ぼそぼそと小さな声だったけど、俺の耳にはちゃんと届いた。 あんなに悪びれなかった那瑠くんが謝った。 まさか謝られるとは思ってなくて、言葉を失う。 「ナツのこと絶対悲しませないでね。」 「う、うん…!」 「ちょっとでも隙見せたら寝取るから。」 「わ、わかった。」 「わからないでくださいよ。寝取られないから。」 口出ししてこなかった城崎が、最後の最後で俺にツッコミを入れる。 那瑠くんはベーッと舌を出して、店から出て行った。 緊張の糸が切れて足元から崩れる俺を、城崎が支えてくれた。 「先輩、凄いですね…。まさかあいつに感謝の言葉が出るなんて。」 「俺、変われたかな…?」 「元々先輩は素敵だけど、なんか今のでめちゃくちゃ惚れ直しちゃいました…。」 城崎にギュッと抱きしめられる。 俺、頑張ったよな…? きっと、前よりもっと強くなれた。 人として、城崎の恋人として、一段と成長できたんじゃないかと思う。 「俺、格好良かった?」 「はい!もう本っ当に格好良かったです!!」 「堂々と城崎の隣歩けるかな?」 「それは前からクリアしてます。俺ももっと先輩に相応しい男になれるように頑張りますね。」 城崎の唇が頬に触れる。 好きだなぁ…。 城崎と目が合い、キスされた頬を指で撫でられる。 これ、もしかして……。 キスされると思って目を閉じると、突然パァンッと破裂音が鳴って、二人とも振り返った。 「おめでと〜う!これでもう何の邪魔もなくイチャイチャできちゃうのね〜!♡」 「れ、麗子ママ…!」 忘れてた…。 そうだ、ここAquaじゃん。 さっきまで麗子ママと喋ってたのに、完全に忘れてた。 「二人の仲直りお祝いパーティーよ〜!新しいボトルたくさんあけちゃうんだからっ♡」 「えっ?!」 「まずは1本目!今日入荷したばっかりの年代物っ♡」 「ちょ、麗子ママ!飲み過ぎー!!」 開けたボトルに口を付ける麗子ママを止めるが、時すでに遅し。 ドバドバと麗子ママに飲み込まれていくお酒を、俺は見つめていることしかできなかった。

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