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第810話
夜が明け、土曜日。
世間は今日から三連休だ。
俺個人としては、こんなに休んでいいんだろうかと申し訳ない気持ちでいっぱいだけど、部長のご厚意に甘えることにする。
「先輩、準備できました?」
「おー。」
今日は心療内科の定期受診。
そのあと城崎とデートだ。
玄関まで急ぐと、城崎は廊下に背を預けて立っていた。
え…っ。めちゃくちゃ格好良い……。
黒を基調とした花柄のシャツに、ダボッとした白のボトムス。
耳と指で光るシルバーアクセも似合ってる。
ハッとして城崎から目を逸らし、靴を履く。
やばい…。見惚れて固まってた…。
「せーんぱい♡」
「な、何…?」
「今日の俺どうですか?」
愚問だろ。
答えは分かりきってるのに、言うのが恥ずかしくてワンテンポ遅れる。
「………めちゃくちゃ格好良いよ。」
「先輩もすげー可愛い♡」
「なっ…!?」
「デート楽しみですね♡」
「おぅ…///」
玄関から出ようとすると、グイッと後ろに引っ張られ、体勢を崩したまま城崎の腕の中に収まった。
「いってきますのチュー。」
「っ!」
軽いキスじゃなくて、舌が絡み合うような濃厚なキス。
あーもう…。
こんなのされたら力入んなくなる。
「ん…ふ……」
「ん、上手。」
時々自分から舌を絡めると、城崎は俺の頭を撫でて褒める。
もっと甘やかしてほしくて、また舌を絡めようとすると、ピピピッとアラームのような音が鳴った。
「あーあ。もう時間か。」
「な、何…?」
「俺がやめられなくなった時のために、念のためアラーム入れてたの。もう出ないと予約時間遅れちゃいます。」
なんだそれ。
中途半端なところでストップしたからか、すごく物足りない感じがする。
そんな内心バレたくないから、顔を背けてドアノブに手をかけると、また後ろに引っ張られ、チュッと触れるだけのキスが降ってきた。
「大好き♡」
「な、何すんだよ!」
「だって先輩、物足りないって顔してたんだもん。」
「っ…?!///」
「違った?」
俺はそんなに顔に出やすいのか。
隠しているつもりだったのにバレバレで、隠したのが逆に恥ずかしくなってきた。
「違…くない…」
「へへ♡」
城崎は嬉しそうに何度も俺にキスした。
可愛い……。
嬉しそうに笑うから、そんな城崎の笑顔を見て俺も嬉しくなる。
キスに夢中になっていると、城崎はハッと顔を上げて時計を見た。
「やばい!遅れる!!」
「あ。」
「先生に少し遅れるって連絡します!」
「ごめん…、ありがと。」
「俺の方こそ、ごめんなさい。先輩のこと好きすぎて夢中になっちゃった。」
「!!!」
なんだその殺し文句。
俺だって時間のこと忘れるくらい夢中になってた。
そっか、城崎も一緒なんだ…。
ジーン…と感動していると、城崎は電話を終えて俺の手をとった。
「さてと。連絡もしたし、そろそろ出ましょう。」
「先生なんて?」
「お気をつけて、ゆっくり来てくださいってさ。」
「あとで謝らなきゃな。」
「はい。」
7月中旬。
ジリジリと照りつける日差しの中を、大好きな人と手を繋いで歩いた。
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