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第812話
昼食を終え、上映時間が近づいてきたので、手洗いを済ませて会場に向かう。
城崎のスマホで入場券をかざして中に入ると、神秘的な空間が広がっていた。
腕を引かれてたどり着いたのは、白くて雲のようなベッド型のペアシート。
「えっ…。城崎、まさか俺たちの席…」
「もちろん。」
「マジか…。」
周りにどう思われても関係ない。
そう思うようにしたものの、やっぱり男同士だから視線は集まる。
こんなに見られてイチャイチャするのは、男同士じゃなくても恥ずかしいものだ。
緊張で体が強張ったまま、とりあえずベッドに腰掛けると、ふわっと体が沈んだ。
「え。すげぇ。」
「すげーふわふわ。先輩、寝ちゃうんじゃないですか?」
「寝ないから!」
体を包み込んでくれるようなふわふわさに感動して、周りの目も忘れてベッドに寝転ぶ。
城崎も横に寝転び、目が合った時にちょうど会場が暗くなった。
真っ暗で、俺たちを照らすのは人工的に投影された星空だけ。
少しくらい…。
そう思って城崎に体を寄せると、城崎も同じことを考えていたのか身体がピッタリとくっついた。
「手、繋いでいい?」
耳元でそう尋ねられ、俺は自分から城崎の手を握った。
城崎は一瞬驚いたような顔をして、顔を綻ばせながら恋人繋ぎに繋ぎ変えた。
隣を見ると、城崎は何ともなさそうに星空を見つめていた。
ドキドキしてるのは俺だけ?
ううん。きっと城崎だって同じように思ってる。
もっと近づきたいな、って。
もっと甘えたいな、って。
そう思うけど、人の目もあるから常識的に考えてできるのは手を繋ぐことくらい。
諦めて星空を見上げる。
あぁ、とても綺麗だ。
BGMのように耳を通り抜けていく解説。
頭に入ってこないから、俺は多分眠いんだと思う。
しかもベッド気持ちいいし…。
眠るために作られただろ、これ……
「……………」
「先輩、寝た?」
「………て…なぃ…」
クスクス笑うような声。
寝ないと啖呵切って起きながら、開始数分でこの様。
そりゃ城崎も笑うよな。
「寝ていいよ?終わったら起こしてあげる。」
「……寝…なぃ…し……」
「はいはい。」
寝てたまるかと何度も目を開けて、その度に瞼が閉じて、気づいたらやっぱり眠っていた。
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