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第819話
夕食を終え、軽く風呂にも入った。
一足先に浴室を出て鏡を見ると、唇が荒れて皮がめくれていた。
でもこれも、キスしまくったからできた愛の証なんだよな…。
こういうのも悪くない…かも…。
「あれ?先輩、まだいたの?」
頭と体を洗ってから出てきた城崎は、ぼーっと突っ立っている俺を見つけてそう聞いた。
鏡に映る裸の城崎を見てドキッとする。
整った顔立ち、逞しい身体、並みのサイズではない男の象徴…。
付き合ってかなり経つとはいえ、時々本当にこんな完璧な男が自分の恋人なのかと疑問になる。
「風邪引いちゃいますよ。」
「あ…、悪い。」
体を拭かれ、服を着せられる。
寝室に行き、ベッドに横並びに寝転んだ。
「唇ヒリヒリする…。」
「まぁ二ヶ月分キスしましたから♡」
「皮めくれた…。」
二ヶ月分…。
だったらもっとするだろ。
……って、俺なに欲求不満みたいなこと思ってんだ?!
一人で考え事をしていると、城崎は鞄から何かを取り出し、嬉しそうに俺に見せつけた。
「じゃーん!見て、先輩!」
「何?」
「リップクリーム。先輩用に買っておいたんです!」
城崎の手には『薬用 高保湿』と書かれたスティックタイプのリップクリーム。
普段そんなもの持ち歩かない。
自分には縁のないものだと思ってたな…。
城崎が包装を開けてキャップを外したから、塗ってくれるのだと思い唇を突き出した。
ふに…と柔らかい感触。
「っ?!なんでだよ!?」
「キス待ちかな〜って。」
「この流れはどう見てもリップクリーム塗れってことだろうが!」
キス待ちのつもりじゃなかった。
でも城崎にはキス待ちの顔に見えたってことだよな?
俺、そんな顔してたってこと?
恥ずかしい。
いきなりキレるという、可愛さのかけらもない行為を城崎は笑って受け流した。
カサついた俺の唇を指で撫で、リップクリームを塗る。
なんか城崎には大人気ないところばかり見せてる気がするな…。
「ありがとな。」
「どういたしまして。…って言っても、自分のためみたいなところもあるんですけどね。」
城崎はあははと苦笑して、またベッドに横になる。
城崎が自分のために俺の唇のケアをする理由…。
俺と……、もっとキスをしたいから…とか?
もしそうだったら、それは城崎だけのためなんかじゃない。
「ううん。俺のためだよ。」
「え?」
「俺、城崎ともっとキスしたいし。」
城崎に跨り、唇を重ねる。
城崎は驚いたような顔をしたけど、すぐに嬉しそうに目を細めた。
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