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第821話

「嫌なら諦めますね。」 「えっ…?」 「俺も先輩第一に考えるって改めて思ったし、先輩が嫌なら我慢します。」 「え…、いや……」 「さて、今日はもう寝ましょうか。」 なんで?! 今、触ってくれる流れだったじゃん! 城崎の発言の真意が掴めない。 明日なら触ってくれる? それとも明日も触ってくれないのか…? 城崎は既に目を閉じてしまっていて、まだ寝ていないとは思うけど、このままだと直に眠ってしまうだろう。 どうしたらいい? どうすれば…。 「………城崎っ!」 「ん?………え?!」 城崎の右手を掴み、服の中に入れる。 城崎の人差し指がグニっと乳首に当たり、声が出そうになったのを唇を噛んで我慢した。 「せ、先輩……?」 「………」 「あの…、俺の指先に…、その〜…」 「…………」 「当たってるんですが…。」 知ってるよ!! 当たり前だろ。だって、当たるように入れたんだ。 「………触って!」 「へ?今日はダメなんじゃ…?」 いつもみたいにわざと俺に言わせて揶揄ってるのかと思ったけど、この感じ、本当に遠慮してる…? 二ヶ月ぽっち離れてただけで、俺の素直じゃない性格まで忘れちまうのかよ…? 「……好きなだけ触っていいから。」 「ほ、本当に?」 「俺は城崎のものだから…。だから、いつでも城崎の好きなようにしていいってこと…だから…。」 もう他の人に触られるなんて考えられない。 俺には城崎だけなんだ。 俺の全てを城崎に捧げるから、ずっと俺のそばにいてほしい。 いつか俺に飽きて、別の奴と付き合うことになったとしても…。 せめて体の関係だけでもいい。 城崎との関係を繋ぎ止めておきたいんだ…。 俺の体温を、俺の息遣いを、俺の感触を、全部忘れられないように、手に、耳に、刻み込んでほしい。 「先輩、大切にします。」 城崎は俺の服の中から手を出し、優しく、力強く俺を抱きしめた。 真剣な声のトーンに、なんだか涙が出そうになる。 「大好きです。何があっても愛するって誓うから、俺だけの先輩でいてください…。」 「………城崎も俺のだけでいてくれる?」 「もちろんです!」 それが当たり前かのように返事する城崎に安心して、緊張がほぐれる。 こんなに好きになった相手が城崎でよかった。 間違いなく言える。 これは俺の一世一代の大恋愛だ。 城崎の腕の中で、俺は安心して眠りについた。

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