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第823話
「はぁ…はぁ…。遅刻するかと思った…。」
「は…ははっ…、先輩のせいですよ。」
久々の出勤。
ギリギリにならないように早く家を出たはずなのに、二人とも息切れしていた。
だってキス一回で終わるつもりだったのに、城崎が離してくれなくて。
そんな城崎を無理矢理止めたのに、「こんな先輩、人前に出せません。」なんて言って、しばらく何もせずじっとしていた。
おかげでこんなギリギリに…。
暑い中走ったから、汗がヤバい。
「先輩、着替え買ってきましょうか?」
「え?」
「シャツはないと思いますけど、インナーくらい売ってるでしょ。」
城崎はコンビニを指さした。
今からこの服で働くのはたしかに嫌かも…。
ベタベタするし、それに汗臭い。
周りを不快にさせるのも嫌だし…。
「頼む…。」
「はい。俺も着替えます。」
城崎は社内のコンビニに小走りで行ってしまった。
お前は臭くねぇけど…と心の中でツッコミを入れながら、椅子に腰掛ける。
にしても、会社に着いてから、なんかすげー周りから視線感じるような…。
俺、無意識に城崎に触ってる…とか?
城崎がコンビニに行ってから少し視線が気にならなくなったから、本当にそうなのかもしれない。
「先輩、お待たせしました。」
「あぁ…、ありがと。」
城崎は黒のインナーシャツを俺に手渡した。
受け取るときに少し手が触れて、ドキッとする。
こういう細かい触れ合いが周りにもバレてる…?
「何かありました?」
「いや…、俺さ……。」
「うん?」
「無意識に城崎に触ってる…?」
「え?どうしてですか?」
城崎はキョトンとしていた。
気づいてないのか…?
「会社着いてから、なんかすげー視線を感じる気がして…。」
「あ〜………。多分それ、俺のせいです。」
「え?」
「まぁちょっと色々ありまして…。それより、早く着替えて行かないと!遅刻ですよ!」
城崎は言いづらそうに言葉を濁した。
色々って何だ…?
なんか今はぐらかされた気が…。
気になるけど、出勤時間は刻一刻と迫っていて、近くのトイレで着替える。
城崎はもちろん同じ個室に入ってきた。
「なんでだよ!」
「先輩の乳首の無事が心配で…。」
「大丈夫だよ。ほら。」
インナーを脱いで胸元を見せる。
ニップレスで覆い隠された乳首は、存在を潜めていた。
城崎は俺を見つめながら、何故か円周率を唱えていた。
「ぶつぶつ言ってないで行くぞ。」
「はーい。」
元々着ていたインナーシャツをビニールに入れて括り、急いで営業部へと駆け込んだ。
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