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第839話

直接肌が重なって、城崎の体温を直に感じる。 「城崎…っ、キスして…」 「先輩…、ん、愛してるよ…。愛してる…」 「ふ…ぅっ…」 心が幸福感に満たされて、溢れ出しそうだ。 城崎のことしか考えられない。 好きで、好きで、好きすぎて、頭がたった一人に占領される。 「先輩、もう俺が世界一愛してる人、誰か分かるよね?」 「ぅ…、俺……?」 「正解。」 こんな馬鹿みたいな質問をしてくるのは、きっと俺がネガティブになって何度も何度も城崎の愛を疑ったから。 今なら分かる。 城崎の愛は俺一人にだけ注がれているって。 自分に自信はないけれど、城崎がこれからもずっとそう証明し続けてくれる。 「一つお願いがあるんですけど…」 「何?」 尋ねると、城崎は俺の耳に顔を近づけ、低く掠れた声で囁いた。 「綾人」 「〜〜っ?!!」 「これからそう呼んでもいいですか?」 耳元で囁かれて、ブワァッと顔が熱くなる。 久々に名前で呼ばれた。 破壊力ヤバすぎて爆散するかと思った。 「綾人…」 「ちょ、待って…!」 「綾人、愛してるよ。」 「む、無理…っ!!」 死ぬ…!!! マジで死ぬ!!! てか、死んだ?? 「ダメ?」 「ダメ…じゃないんだけど…っ、いきなりはちょっと…!」 「顔真っ赤。可愛い。」 「〜〜〜っ!!」 顔を手で覆い隠し、視線を避ける。 誰かこいつ止めて!! イケメンの暴力だ!! そんな愛おしそうな目で俺を見つめて、しかも名前呼びとか…!! 「死ぬ!!」 「死んじゃダメ。」 「今脈ヤバいから多分本当に死ぬ…!!」 「ふっ、本当だ…(笑)心臓の音すご…。」 城崎は俺の胸元に耳を当ててクスクス笑う。 楽しそうに笑うその笑顔ですら、今の俺には致死量の毒みたいなものだ。 マジで誰かこいつ止めろ…。 「綾人、愛してるよ。」 「おい…。」 「綾人。」 「だ…からもう…、ダメだって…!」 「何で今まで名前で呼んでなかったんだろう?名前呼ぶだけでこんなに幸せなのに。」 城崎は俺を抱きしめてそう言った。 付き合ってから名前で呼ばれ続けていたら、今頃慣れていたのだろうか? いや…、最低限普段は慣れたとしても、多分こういうときは慣れない。 バクバクと大きく鼓動する心臓に、治まれと念を送った。

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