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第844話
程なくして城崎は泣き止み、俺の中からモノを抜いて、顔が見えないように俺を抱きしめた。
「みっともないところ見せてすみませんでした…。」
「どこがみっともないんだよ?」
「穴があったら入りたいです…。」
俺にはどうしようもなく愛おしく思えたけど、本人は恥ずかしくて仕方がないらしい。
俺の前では格好付けだからなぁ。
ああいうの、個人的にはもっと見せてほしいけど。
「なぁ、城崎。」
「えっ…。」
「ん?」
「もう名前で呼んでくれないんですか…?」
残念そうに眉を下げる城崎を見て、思わず笑ってしまいそうになる。
「今更すぎて恥ずかしいんだよ。」
「エッチするときは呼んでくれますか?」
「あ〜……、考えとく。」
"夏月"
そう呼んだ時、愛おしさが増した気がした。
本当は普段から呼んでやりたいけど、恥ずかしすぎて名前を呼ぶ回数が減ってしまいそうだから、まだしばらくは今まで通りにしようと思った。
でも体を繋げるときは、愛情を込めて呼んでやりたい。
「そっか〜。でも、そんなことしたらパブロフの犬みたいになっちゃいますけど。」
「え。」
「今後綾人さんが俺のこと名前で呼んでくれるようになっても、俺の頭が勝手にエッチなこと考えて興奮しちゃうかもよってこと。」
それは困った。
名前を呼ぶだけで発情しちゃう、とんでもない恋人にしてしまう可能性があるのか。
「…………考えとく。」
「結局検討か〜。」
「だって名前呼ぶだけで恥ずかしいんだよ。」
「試しに呼んでみてよ?」
城崎は期待した目で俺を見つめる。
呼ぶしかないのか、これは…。
「な、夏月……」
「あはは!本当だ、顔真っ赤!」
「おい!馬鹿にしてんのか?!」
「してませんよ!可愛いって褒めてんの!」
本当かよ?
でもこんな嬉しそうな城崎見てたら、馬鹿にされてたとしてもどうでもよくなってくる。
「それより綾人さんは何言おうとしてたんですか?」
「え?……あぁ。」
さっき言いかけて、名前呼びのことで話が中断した。
俺が言いかけたのはそう。
「親に紹介したいんだけど、お盆って予定空いてる?」
「へっ?!今なんて?!」
城崎は目を見開いて俺を見つめた。
「いやだから、親に紹介…」
「いいんですか?!!」
そんな驚くことか?
付き合ってて、しかも将来一緒にいたいとまで言ってたら、自然なことだと思うんだけど…。
「会いたいって。ちゃんと男だって両親に伝えてるから、俺と一緒に帰省してくれませんか?」
「も、もちろんです!」
「はは。よかった〜。」
改めてお願いすると、城崎は喜んで俺の手を握ってくれた。
嬉しそうに俺の額にキスする。
「綾人さん、説得頑張ってくれてましたもんね。」
「強敵だったよ。特に母さんが。」
「認めてもらえるように頑張りますね。」
「多分顔パスだよ。すげー面食いだし。」
「顔以外も良いところ、いっぱいアピールします!」
城崎の25歳の誕生日。
関係性も、気持ちも、そして身体も。
たくさん前に進むことのできた、思い出深い一日になったのだった。
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