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第846話

時間になり、いってきますのキスをして外へ出た。 炎天下の中、日傘をさして駅まで向かう。 こんなにも暑いのに、城崎から少しでも離れたくないと思うのは、前よりももっとこいつに惚れてしまったってことなんだろうか? 「暑いですね…。綾人さん、大丈夫?」 「何が…?」 「身体、辛くない…?」 「ぶっ…!お、おまえなぁ…?!」 周りに誰もいなくてよかった。 こんな会話聞かれてたら、恥ずかしくて外歩けねぇよ。 「だって…。朝、痛かったんでしょう?本当のこと教えてほしい。心配なんです…。」 「多少はな。」 「本当に少しだけ?膝から崩れ落ちるくらい痛かったんじゃ…」 「ほら、もう駅着くから。帰ったらちゃんと言うから、この話題は終わり。」 無理矢理会話を終わらせ、改札を通って電車に乗る。 土曜日の朝は電車も空いていて、二人並んで椅子に腰掛けた。 城崎は人に見えないように、俺の腰を優しく撫でていた。 程なくして目的の駅へと到着し、クリニックに着いたのは予約時間を5分ほど過ぎてからだった。 「「遅れてすみません!」」 「望月さん、城崎さん、こんにちは。」 遅れていたのもあり、慌てて二人で診察に入ると、先生はいつも通りの優しい笑顔で出迎えてくれた。 額から首へと伝う汗を、城崎がハンカチで拭ってくれる。 「暑いですね。体調崩されていませんか?」 「はい。調子は良いです。」 「それはよかったです。念のため、お気持ちの変化や状況も伺って良いですか?」 渡瀬先生は俺の言葉をサラサラとカルテに書き綴っていく。 城崎とのことを話すのも、受診し始めた当時は辛かったのに、今じゃ話すために思い出しては幸せな気持ちになる。 城崎は俺の手を握りながら、嬉しそうに微笑んでいた。 「顔色もとても良いです。きっと良いことがあったんですね。」 「そうなんですよ!昨日綾人さんと…っ!」 「城崎っ!!」 慌てて城崎の口を塞ぐ。 今こいつ何言おうとした?! 「ふふっ…。聞かないでおきますね?」 「すみません…。」 「名前呼びになったんですね。」 「っ!!」 「素敵です。嬉しいですよね、好きな人に名前を呼んでもらうのは。」 先生はニコニコしてそう言った。 なんか城崎が言わずとも、先生には全部見通されてる気がする…。 恥ずかしすぎる…。 「じゃあ予定通り薬は減量していきましょう。1日2回飲むのは変わらず、まずは薬の1回量を減らします。」 「分かりました。」 「受診の頻度も少し空けましょうか。二週間後の土曜日の同じ時間に予約お取りしておきます。変更など希望あればまたご連絡ください。」 「ありがとうございました。」 診察室を出て待合のソファに腰掛ける。 うぅ…。やっぱり全身痛ぇ…。 筋肉痛に加えて、腰痛と尻の痛み。 痩せ我慢がバレるのも時間の問題だろう。 帰ったら白状しよう。 「綾人さん、今日何食べたい?」 「えー。トンカツ。」 「いいですね♪痛みに勝つ!」 うん。既にバレてるな、これは。 苦笑しながら城崎にもたれかかる。 「黙ってて悪かった。」 「顔みてたら分かります。でも俺のためを思って我慢してくれてたんでしょ?」 「…………」 「綾人さんと繋がれたこと、後悔なんてしてません。朝約束した通り、今日もシたい。でも綾人さんが辛そうだったらすぐに止めるから。」 城崎はチュッチュッと俺の髪にキスして、名前を呼ばれるや否や支払いに行ってしまった。 俺は真っ赤になった顔がバレないように下を向いていた。

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