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第847話

「ただいま〜…、あー、暑……」 「綾人さん。」 家に着いて真っ直ぐにリビングに向かおうとした俺を、城崎は後ろから抱きしめる。 こんな熱された室内で抱きしめるなんて、暑い以外の何ものでもないのに、振り解くことなんてできなかった。 耳に城崎の唇が当たる。 ドキドキして固まっていると、ふぅっと優しく息をかけられた。 「綾人…」 「…っ!!」 名前を呼ばれただけで感じてしまう。 だってこんなエロい声で…、狡い…。 「顔見せて?」 「やだ…」 「キスしたい。」 「………」 きっと今の俺の顔は真っ赤だし、照れすぎて変な顔してると思う。 でもキスしたいって気持ちは同じ。 前に回された城崎の手を握ると、城崎はそれを同意の合図だと受け取り、俺をくるりと自分の方に向けて顔を近づけた。 「綾人さん、可愛い。」 「なっ…?!」 「好きだよ。」 見つめあった後、優しく唇が重なる。 城崎は俺の唇を味わうように、何度も食むように重ねた。 城崎を抱きしめる手に力を込めると、城崎はするりと俺のズボンに手を入れた。 大きな手が俺の双丘を下から支えるように掴む。 時々揉むように動く手がもどかしくて城崎を見つめると、俺と目を見て、城崎はスッと目を細めた。 「んんっ…」 「綾人、口あけて。」 「んぁ…、んぅ…」 言われるがまま口を開けると、城崎の舌が口内に侵入し、中を好きなように蹂躙する。 わざとらしく立てられる水音に興奮していると、尻に強烈な痛みが走った。 「〜〜〜っっ!!!」 「ご、ごめんなさい!痛かった?」 「わ、悪い…」 城崎の人差し指が肛門を撫でただけ。 たったそれだけなのに、めちゃくちゃ痛かった。 触れただけでこんなに痛いとか、本当にしばらくできないんじゃ……。 「やっぱり今日は無理かな…。」 「………」 「まぁ挿れなくたって愛し合えるし、気持ちいいこともできるもんね。」 「でも…」 城崎は俺の全部を愛してくれている。 分かっているから、俺だって城崎を幸せにしたい。気持ちよくしてあげたい。愛したい。 俺の全部で城崎を受け入れたいのに…。 しょんぼりしていると、城崎は俺を力強く抱きしめた。 「名前呼んでキスしてくれたら、俺はすげぇ幸せなんだけどなぁ〜?」 「………」 「ごめん。嘘です。リビング行ってエアコン付けましょ!」 城崎の名前を呼ぶのが嫌なわけじゃない。 恥ずかしい、ただそれだけ。 黙ってしまう俺を見て、城崎はきっと傷付いているのに、平気なふりをして俺を抱きしめていた手を解いた。 「待って!」 「?」 さっきとは逆の立場になり、リビングに行こうとする城崎の手を掴む。 言え。 好きな奴の名前くらい呼べよ、俺。 「な…、つき……」 「っ!!」 「夏月、好きだよ。」 目を見てそう伝えると、城崎は今日一の笑顔で俺のことを抱きしめて、また唇を重ねた。

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