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第851話
8月に入り、暑さがさらに増した。
汗水垂らしながら外回り営業の過酷な時期。
俺は体調を崩したこともあり、今年は上の計らいで内勤業務に回してもらった。
「あっつ〜〜〜!!!」
「お疲れ様。」
「いいなぁ。綾人は内勤で。」
文句垂れているのは親友の涼真。
炎天下の中、2社の営業に回ってきたらしい。
「無理…。営業マン辞める…。」
「毎年言ってないか?」
「だって暑すぎるだろ…。年々暑くなってる気がする…。」
「それは言えてる…。」
社内はエアコンが効いていて涼しいが、一歩外に出れば溶けてしまいそうなくらい暑い。
涼真は名前こそ涼しいが、暑さには弱いらしい。
「あーやーとーさんっ♡」
「わっ?!」
「体調大丈夫ですか?」
突然後ろから抱きしめられる。
犯人はもちろん…。
「城崎っ!外では名前で呼ぶなって言ってんだろ!」
「え〜。柳津さんしかいないし良くないですか?」
「ていうか、会社で抱きつくな!」
「へーへー。お熱いことで。」
手を離そうとしない城崎と、振り払おうとする俺のやりとりを見て、涼真は長〜いため息を吐く。
城崎は俺が頭を叩いてやっと手を離した。
「内勤なんだから体調は問題ねぇよ。」
「エアコン効きすぎて風邪ひいたらどうするんですか?それに、お薬減らしたから心配なんです。」
「先生はもう無くしてもいいくらいだって言ってただろ?離脱症状が出ないように慎重なだけで。」
「心配くらいさせてください。先輩のことが大事なんです。」
8月に入って変わったことと言えば、つい先日の診察で薬が1日1回に減量になったことくらい。
名前呼びは会社では禁じているし、いつもと変わらないはずなのに、涼真には進展があったとすぐにバレた。
「エアコン効いてるのにおまえらが熱すぎて暑いー。」
「悪かったよ。涼真、ごめん。」
「つーか、城崎はなんでこんな暑い中外回りしてんのに、そんな涼しげなの?」
「だって汗臭かったら先輩に嫌われるじゃないですか。俺だって色々対策してるんですよ。まぁ体質もあるでしょうけど。」
たしかに抱きしめられたけど、臭くもなかったし、なんなら爽やかオーラ漂ってるし。
イケメンってなんでそんないろいろ恵まれてるわけ?
「嫌わないし。俺だって汗かくぞ?」
「先輩の汗は聖水ですよ♡」
「「キモい。」」
完璧かと思ったらシンプルにキモいこともある。
まぁ城崎がキモいのって、俺に関することな気がするけど…。
「ただいま戻りました。あ。主任♡」
「戻りました。あっ!城崎さんっ!!」
「「げっ…」」
蛇目と蛙石が帰ってきた。
俺たちの方を見るなりこっちに来るから、俺と城崎は二人で逃げた。
あれからというもの、俺は蛇目が苦手だ。
相談に乗ってくれた時も感じたけど、きっと根は悪い奴ではないのだと思う。
でもまぁ、あんなことがあったから、俺はできるだけ距離は取るようにしてる。
イタズラで恋人の中を掻き乱すなんて絶対に良くない。
しばらく大人しくしていた蛇目が、またこうして俺に話しかけてくるようになったのは、城崎の誕生日が終えてからだったから、蛇目の目にも俺の城崎の仲が深まったように見えているのかもしれない。
全然隠せてないじゃん、俺たち。
逃げ込んだ先の個室トイレで、俺はもう少し周りに隠さないとと再認識した。
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