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第853話

「涼真、どうしたんだよ?悩みなら聞くぞ?」 結局城崎もついてきて、3人で席に着いた。 涼真がここまで凹んでるのは久々に見たかもしれない。 「綾人…、俺…、俺っ…」 「うん?」 「浮気されたかもしれない…。」 俺の手を握ってウルウルと目を潤ませる涼真。 つい最近まで逆の立場だったけど、俺は随分と涼真に助けられた。 今度は俺が助けてやりたい。 涼真の手を握り返すと、城崎が手を挙げた。 「はーい。たった今俺が浮気されてまーす。」 「はぁっ?!」 「手を握り合ってるの、浮気だと思いまーす。」 「ば、馬鹿じゃねぇの?!つーか、よく浮気されたかもって傷ついてる奴の前でそんな冗談言えるな?!」 「俺結構真面目に言ってるんですけど。綾人さん、俺以外の人と手を握り合っていいと思ってるんですか?」 いつもの冗談かと思っていたら、割とガチなトーンで俺を責めてくる城崎。 手を繋いだら浮気か。マジか。 「悪い。城崎、悪かったよ。」 「もうしない?」 「しない。嫌な気持ちにしてごめん。」 「……なぁ、おまえら俺を慰める気あんの?」 城崎と手を握り合っていたら、涼真がムスッとした顔で俺たちを睨んだ。 そうだよ。本題はこっちじゃん。 「で?何があったんです?」 なんだかんだ涼真のこと気にかけてくれるようになったのは、きっと城崎も涼真を認めてくれたってことなんだと思う。 好きな人が親友のこと認めてくれるのは嬉しい。 ほっこりしてると、涼真は真剣に話し始めた。 「前に綾人には言ったんだけどさ…。俺、彼女に嘘つかれてたっぽくて…。」 「嘘?」 「ほら、言ったじゃん。医療事務やってるって言ってたけど、休みが不定期というか…。ちょっと変、みたいな…。」 「あぁ。」 俺が傷心してる時、そんなことも言ってたような…。 「嘘がなんで浮気になるんですか?」 「俺、彼女の勤めてる病院に行ってみたんだよ。そしたらさ、その…、めちゃくちゃイケメンの男の人と入り口から出てきたのを見ちゃって…。」 「おぉ…。」 「周りの人の話に聞き耳立ててみたら、『彼女、良いお医者様よね。素敵な旦那さんがいて羨ましいわね。』って…。」 「えぇ…。」 涼真曰く、彼女は医者なのに医療事務と嘘をつき、かつ旦那持ちかもしれないということだった。 もちろん憶測でしかないが、気持ちも分かる。 恋人が他の素敵な人と並んで歩いてたらネガティブにもなってしまうものだ。 しかも、涼真の彼女って、めちゃくちゃ美人だったはず。 俺も城崎がイケメンすぎて、誰かといると気が気でないもんな…。 「ふーん。でもそれって、ただの勘違いかもしれないですよね?」 「勘違いだったらいいけどな…。最近彼女、忙しいってなかなか会えないし、ご無沙汰だし…。」 「医者なら仕方ないんじゃないですか?」 「そうなんだよ!そもそも医者って彼氏に隠すことか?!」 「言いたくない理由があったんじゃないですか?」 「そうかもだけど…。なんでぇ…?」 めそめそと泣いている親友を放っておくわけにはいかず、今すぐにでも解決してあげたい。 城崎に耳打ちする。 「え?」 「いいだろ?な?」 城崎に提案したのはもちろん、真相を確かめに行くことだ。 今日病院に行って彼女を待ち伏せ。 俺は顔を知っているから、さすがにあんな美人を見間違うはずもない。 彼女に直接聞いて、酷い女だったらそれまでだし、涼真の勘違いなら解決だ。 「まぁ、いいですけど…。」 「決まりな!じゃあ今日頑張って仕事終わらせるぞ!」 ランチの後、急ピッチで仕事を終わらせ、俺と城崎は定時でタイムカードを切って急いで病院に向かった。

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