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第862話
ピーーッ!!
「倉科、松島ペアの勝ち!」
「やったー♪透、やったね!」
「はっ。分を弁えろよ、夏月。」
結果は惨敗。
いや、点差としては大きく開いていたけど、内容としては良い勝負だったはず。
テニス以外の球技は苦手な俺をカバーしながら、あの強烈な倉科さんのアタックを何度も止めて…。
城崎はよく頑張ったと思う。
主に俺が足引っ張っていた。
城崎はぜぇぜぇと息を切らしながら、俺のことを抱きしめる。
「ちょっ…!周りめちゃくちゃ人いるんだぞ?!」
「無理…。綾人さんと一週間エッチできないなんて…。」
多くのギャラリーは倉科さんを取り囲んでいたけど、城崎目当てで見ていた女の子も多いわけで。
俺と城崎の周りにもまだギャラリーは残っていた。
だから周囲からの目が気になったけど、ここで拒否したら前までと何も変わらない。
決めたじゃないか。周りの目を気にせず、城崎を愛するって。
それに、こんなにもしょんぼりしている城崎を放って置けない。
城崎の背に手を回すと、城崎の手にもさらに力がこもる。
「悪かったよ。俺がもう少し動ければ…」
「ううん。俺の力が及ばなかったんです…。お願いだから、失望しないでください…。」
バカ言え。
失望どころか、めちゃくちゃ格好良かったよ…。
勘違いしたままでいて欲しくなかったから小声で伝えると、城崎はそのまま俺を砂浜に押し倒した。
「愛してます。綾人さん、大好き。大好きです…っ」
「おぉ…。俺も好きだけどさ…。この格好はさすがに…」
周りから悲鳴が聞こえるんですけど…。
この場から逃げたい。
唇が触れそうなくらい近い城崎の顔を前にして固まっていると、思いもしない助け舟がやってきた。
「セックス禁止つってんのに、負けた瞬間おっ始めようとしてんじゃねぇよ。」
「く、倉科さんっ!」
「望月さんには悪いけど、ペナルティ付き合ってくださいね。」
「は、はい…。まぁ、負けたんで…。」
これが勝者の余裕か…。
圭くんの肩に手を回し、暑苦しいくらいベタベタしている。
倉科さんが周りのギャラリーを散らし、凹んだ城崎をパラソルまで連れて帰った。
「まぁまぁ、城崎さん!そんな凹まずに、スイカ割りしましょうよ!」
「スイカ割り……。」
「そうそう!当初の目的はスイカ割りだしな!夕方にはBBQも控えてるし、楽しもうぜ!」
ペナルティのことを知らない涼真やちゅんちゅんは、城崎を励まそうと必死だ。
多分城崎の傷は俺にしか癒せない…と思う。
でもこうして励ましてくれる先輩や後輩がいて恵まれてるな、城崎は。
「綾人さん…」
「うん?」
「もう一回好きって言ってください…。」
「へ…?」
「お願い…。」
「………ぁ、愛してる…よ…。」
聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でぼそりと呟くと、城崎は俺の唇を奪った。
「お熱いねぇ。熱々だねぇ。」
「本当、望月さんの前じゃ別人だな。」
「お、おまえら人前で…。」
見えていたのは倉科さんと圭くん、それに涼真くらいだったようで、涼真はわなわなと震え、倉科さんと圭くんはクスクス笑っていた。
「みなさーん!スイカ割り準備できましたよーっ!」
ちゅんちゅんに呼ばれ、俺はみんなの顔を見れずに下を向きながら場所を移動した。
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