871 / 1069
第871話
「綾人さんっ!帰りましょ〜♡」
「ゲッ。マジで定時で終わったのかよ?ていうか、職場では名前呼びするなって言ってるだろ…。」
「だって〜…。うん、わかりました。ごめんなさい、先輩っ♡」
「本当に分かってんのか?」
定時ぴったりに俺の前に現れた城崎。
名前呼びやめても、こんなデレデレじゃ変わんねぇよ。
にしても、どうするか…。
仕事、もうちょっとだけ残ってるんだよな…。
先に百貨店行ってもらう方がいいか?
「なぁ、城崎。おまえ先に…」
「あとこれだけですか?俺も手伝います。」
「いや、百貨店閉まる前に行ってくれよ。」
「そんなすぐ閉まりません。明日は大事な日なんですよ?先輩と離れるなんてできる限り避けたいんです。」
「どういう理屈だよ。」
「願掛けみたいなもんです。」
理由はともあれ、城崎は手伝うことを勝手に決めたらしい。
まぁそんなに多くもないし、百貨店閉まるまでには帰れるか。
「ありがとな。」
「どういたしまして。………先輩、一つだけお願いが…。」
「何だよ?口篭って。」
「ちょっとこっち…」
グイグイと手を引かれ、導かれるままに着いていく。
到着したのは地下の隅にある人がほとんど出入りしないトイレ。
ここに来たってことは…。
「おいこら…。」
「だって……。今日も頑張ったからご褒美欲しいな〜?」
「ご褒美は飯だって……、んっ」
「ご飯だけじゃ足りない。先輩が欲しい…。」
「んっ!ちょ、城崎…!家帰ってからで…、っ♡」
「我慢できない。」
個室に閉じ込められて、壁に押さえつけられ唇を奪われる。
味わうように何度も重なり、時々舌を捻じ入れられる。
「んぅっ…ぁ、はっ…、城崎…っ♡」
「可愛い…。愛してるよ…。」
「ちょっ…んぁ…♡」
膝で股間をぐりぐり刺激され、否が応でも反応してしまう。
まだ仕事あんのに…!
「綾人……」
「こんの…、バカッ!!」
「痛っ!」
フーッフーッと荒い息を吐き、城崎を突き飛ばす。
このまま流されてちゃ、仕事終わんねぇ…。
キョトン…とした城崎を叱りつける。
「職場で何してんだっ!バカ!」
「………」
「俺の両親のために手土産持っていきたいつったの城崎じゃん!!百貨店閉まっても知らないからな!?」
「……ごめんなさい。」
「もう一人で帰れ!俺は仕事終わらせて帰るから。」
「やだっ!ごめんなさい…。もうしない。ごめんなさい…。」
あーもう…。
こんなことで喧嘩したくなかったのに…。
目を潤ませて謝罪を繰り返す城崎の頬にキスをする。
「悪い。言い過ぎた…。」
「ううん。職場で盛ってごめんなさい…。」
「すぐ終わらせて向かうから、先に良さそうなの選んでて?母さんは餡子が好きだから。和菓子系の方が喜ぶ。」
「……!!はい!」
城崎は気持ちを切り替えたのか、嬉しそうに返事した。
部署に戻り、鞄を持ってエレベーターに乗ろうとする城崎の手を掴み、近づいて耳打ちする。
「帰ったらたくさんキスして…。」
「………!!」
「じゃ。また後で。」
「あ、綾人さんっ!」
城崎は名残惜しそうだったが、エレベーターが閉まって下に行くのを見送ってから仕事に戻った。
ともだちにシェアしよう!