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第872話

城崎を見送って1時間。 残業を終えて職場を出る。 もう帰ったかと思ってメッセージを飛ばすと、今百貨店を出たところだから一緒に帰りたいと返事があった。 百貨店の最寄駅で待っていると、城崎が嬉しそうに寄ってきた。 「綾人さんっ♡お疲れ様でした!」 「あぁ。いいの選べたか?」 「はいっ!時間も時間なので、日中並ぶ人気店のものは買えなかったですけど…。」 紙袋を掲げて微笑む様子を見て、満足いく買い物ができたのだと安心する。 にしても多いな。 そんなツッコミを入れたら、帰ってくる言葉は想像つくけど。 「それうちの両親に渡す分だよな?」 「そうですよ!あとお祖母様にも。何がお好きかなって考えてる間も楽しかったです。」 「うん…。まぁそれはいいんだけど、多くね?」 「多くないですよ!綾人さんのご家族にですよ?!むしろ少ないくらいです!!!」 やっぱり。 なんか俺のことになると、相変わらず変になるよなぁ。 常識はずれというか。 「帰るか。」 「はいっ!早く帰りましょう♡」 「家着くまでは我慢しろよ?」 「それくらい分かってますよ。野蛮人じゃないんですから。」 「どの口が言ってんだ。」 さっき職場で盛ってたくせに。 最寄駅に着いて家に向かうまでの暗い道、人気が少なくなってきたところで、城崎は俺の手を握った。 「早くキスしたいな〜。」 「野蛮人。」 「なっ…?!我慢してるじゃないですか!そんなこと言ってたら今ここでしちゃいますよ?!」 「だーめ。」 城崎を揶揄うのは少し楽しい。 いつも揶揄われる側だから不思議な感じもするけど。 城崎の歩幅が少し大きくなり、少し気持ちが焦ってるのがわかる。 城崎に合わせて歩幅を大きくした。 俺だって早く城崎とキスしたい。 家に着いてすぐ、城崎は俺を抱きしめて唇を重ねた。 「ん…っ、ん」 「綾人さん、口開けて。」 「んふ…っ、んぁ…♡」 気持ちいい。 息がしづらくて苦しいのに、それ以上に幸せ。 まるで自分のものだと主張するように、俺の口内を蹂躙するのが愛しくて、可愛くて仕方がない。 「し…ろさき…っ」 「ん?」 俺の声が届くと、城崎は一旦動きを止めて、ちゃんと俺の声に耳を傾ける。 大事にしてくれてんだなぁって、また心が温かくなる。 「気持ちいい…?」 「はい。もちろんですっ♡」 「うん…。よかった…。」 「続きしてもいい?」 続きが何のことを指すのかは分からないけど、城崎にだったら何されてもいい。 コクンと首を縦に振ると、また激しいキスが始まった。 今日は倉科さんとの約束を覚えているのか、城崎はいつもなら触るであろう場所に触ってくることはなかった。 本当はもっと触れてほしい。 でも城崎が我慢してくれてるのに、俺が焚き付けちゃダメだよな…。 俺も城崎も満足するまでキスしていたら、時計の長針は半分以上回っていた。

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