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第874話

夜が明け、朝を迎える。 目の前には城崎の胸板があって、すり…と頬を寄せる。 まだ寝てんのかと思い顔を上げると、城崎の目はばっちり開いていた。 「うわっ?!びっくりした!!怖ーよ!!」 「だ…だって…、眠れなくて…」 「はぁ?!寝てないのかよ!!」 「だってご両親に挨拶ですよっ?!綾人さんをくださいって言いに行くんですよ?!!」 「気が早ぇよ。付き合ってますの報告だよ、バカ。」 思わず顔が熱くなる。 当たり前のように結婚を視野に入れてくれているのが嬉しい。 まぁ今後、このまま付き合っていたらそういう日も来るわけで、いつかは結婚の挨拶もすることになるんだろうけど…。 まさか自分が"ください"と言われる側になると思わなかった。 俺もちゃんと城崎の両親には挨拶したいし、そうなると俺もいつかは"ください"って言うんだよな…。 自分がその立場に置かれたら、想像しただけで緊張する。 「綾人さんをくださいじゃなかったら、何て言えばいいんですか…。」 「自分で考えろ。」 「酷いっ!頭パニックですよ!変なこと口走るかも…!!」 「ははは。」 「笑い事じゃないですよ!!」 こんなに慌ててる城崎見ても、全然焦らない。 だって城崎だぞ? 心配することなんて一つもない。 こいつは決める時は確実に決める男だから。 「ほら、そろそろ着替えるぞ。」 ベッドから降りて、クローゼットを開ける。 どんな服にするかな。 名目上お盆の帰省といえど大事な話をするし、Tシャツってわけにもいかないよな…。 「綾人さん、緊張する。」 「はえーよ、馬鹿。」 「何着て行こう?やっぱりスーツ?」 「マジでやめろな?普通の服着ていかないと家入れないから。」 結婚の挨拶をしに行くわけじゃないのにスーツって…。 さっきからずっと気が早い。 嬉しいんだよ?嬉しいんだけどさ。 あくまで今回は付き合ってる報告だけだから。 と、何度も自分に言い聞かせながら、城崎の服から綺麗めの上下を選んで手渡す。 「派手じゃないですか?」 「うん。」 「似合ってますか??」 「うん。」 「俺と結婚してくれますか??」 「うん。……って、おい。」 「やっぱり適当じゃないですかぁ〜!!」 全然服を決めないから選んであげたのに、それでも心配ばかりするから、適当に返事していたらトラップに引っ掛かった。 そのあと心を込めて、本当に似合ってる、格好良いと何度も伝えた。 何の罰ゲームだよと思いながらも本気で褒めたのに、それでも城崎の不安は拭えないらしく、涼真にビデオ通話までして、『いいんじゃね?』と言葉をもらった。 「城崎、行くぞ。」 「はーい。……あ、待って。綾人さん。」 「ん?」 靴を履いて玄関の戸を開けようとすると呼び止められ、振り返ると腕を引かれて抱きしめられる。 体勢を立て直そうと身じろぎして、やっと顔を上げると、唇が重なった。 「んっ…ふ……」 「かーわいい。」 「い、いきなり何すんだよ?!」 いつもみたいに照れ隠しで怒ると、城崎は俺を愛おしそうに見つめて、言葉を紡ぐ。 「愛しちゃダメですか?」 「……!!」 なんだそれ。 そんな分かりきった質問、答えは一つしかない。 「ねぇ、ダメなの?」 「い…、いいに決まってんだろ!!俺以外愛したら許さないから!」 顔が熱い。 ぶっきらぼうに放った言葉は、きっと全然可愛げがないのに、城崎はめちゃくちゃ幸せそうに微笑んで、俺の唇にもう一度キスを落とした。

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