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第875話

電車を乗り継ぎ、懐かしい景色が見えてくる。 城崎、田舎すぎて引いてるんじゃ…。 そう思って隣を見ると、城崎は目をキラキラさせて窓の外を見つめていた。 「ここが綾人さんの育った土地なんですね!!」 「大袈裟な。すげー田舎でびっくりしただろ?」 「いえ、羨ましいです!こんな広大な自然の多いところで育ったなら、綾人さんの心が広いところも穏やかな性格も何だか全部納得しました!」 過剰評価がすごいけど、引いてはないらしい。 よかった、城崎が俺に関しては考えがバグる変態で。 「今俺のことディスりました?」 「はっ…?え?」 口に出てたか?!と思い、咄嗟に口元に手を当てると、城崎はドヤ顔で俺を見た。 「やっぱり。俺最近、綾人さんの心読めちゃうみたいです♡」 「バカいえ。」 「でも心の中で悪口言ってたでしょ〜?」 「言ってない!」 「白状しろ〜!」 「ぷっ…、あはは!ちょ、ズルい!待った…、あはは!」 擽られて観念しそうになっていると、車内アナウンスが鳴る。 もうすぐ俺の最寄駅に着くらしい。 本やタブレット、飲み物など広げたものを片して、電車が完全に止まってから席を立った。 「わ〜〜!!空気が美味しいですね!」 「それくらいしかいいとこないからな。」 「そんなことないですよ。」 「そんなことあるんだよ。今から乗るバス、乗り遅れたら次は3時間後だぞ?」 「じゃあ急がないと!」 城崎に手を引かれ、バス停まで走る。 何だか変な感じだ。 懐かしい景色の中に、大好きな城崎がいる。 「あー!バス来ちゃいました!綾人さん、走って!!」 「わっ?!」 「乗りまーす!!」 城崎が大きい声で叫んでくれたおかげでバスは止まり、なんとか乗ることができた。 バスで十数分、実家の最寄りのバス停に到着した。 見える距離に実家があって、いつもなら帰ってきた時安心するのに、今はむしろ緊張してる。 あれだけ否定された手前、本当は少し不安なんだ。 「緊張する…。」 「大丈夫です。」 城崎は震える俺の手を掴み、優しく指を絡ませた。 今は城崎の存在が俺を安心させてくれる。 「緊張しねぇの?」 「だって綾人さんを育ててくれたご家族ですよ。良い人であることは折り紙付きじゃないですか。」 「そうだけど…。」 俯いていると、城崎は俺の顎に手を添えた。 無理矢理顔を上げさせられたかと思ったら、唇にキスが降ってきた。 思わず固まる。 「おまじないです♡」 「なっ…!おまえ、ここ田舎だぞ?!誰かに見られてたら一瞬で噂広がるんだからな?!」 「誰もいなかったですよ〜。というか、緊張解けました??」 「うっ…。家出るまでお前の方が緊張してたくせに…。」 「ここまで来ると逆に肝が据わっちゃいましたね〜。」 こいつ心臓に毛が生えてるだろ。 でもなんか、城崎の堂々とした姿を見ていたら安心してきた。 そうだよ、大丈夫だ。 だって俺の家族だもん。 「ただいま〜。」 ガラガラと玄関の戸を開けると、中から勢いよく何かが飛びかかってきた。

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