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第876話

「うわっ!?」 「兄さん!!おかえりなさいっ!!再来週来るって言ってたのに、僕がいない間に来てたんでしょ?!寂しかった……って、誰ですか……??」 飛びついてきたのは大翔だった。 後ろに倒れそうだったのを、城崎が支えてくれた。 大翔は城崎を睨みつけて、少し距離を取る。 大翔の後ろから追いかけるように母さんも現れた。 「こら、大翔!…あら…まぁ、素敵……。」 「はじめまして。この度は、お忙しいところお時間を作ってくださいましてありがとうございます。綾人さんとお付き合いさせていただいております、城崎夏月です。短い間にはなりますが、よろしくお願いします。」 「はぁっ?!お付き合い??」 固まる母さんに、城崎は自己紹介をして頭を下げた。 大翔は信じられないものを見るような顔で城崎を二度見する。 母さんはハッとしたかと思うと、慌てて居間の方へ走って行った。 「あなた〜っ!どうしましょう!綾人が俳優さん連れてきちゃった〜!!」 「ちょ、母さん…?!あー…、もう。なんかごめんな、城崎…。」 「ふふっ。綾人さんの家族、面白いですね。」 とりあえず中に上がろうと靴を脱ぎ、居間へと続く廊下を進んでいると、後ろからまた衝撃が走る。 「兄さん!どういうことですかっ?!相手が男って…」 「ごめんな、大翔には言ってなかったな。今から父さんと母さんにも紹介するから、一緒に聞いてくれるか?」 「………やだ。」 「え?」 「やだ!聞かない!!絶対絶対聞かない!!」 「大翔…?!」 大翔には恋人がいるということは正月に伝えていた。 その後も一度だけ恋人の話が出たことはあったけど、男だとは伝えていなかった。 いつか話そうとは思っていたけど、まさかここまで拒否されるとは思わなかった。 大翔だって大事な家族なのに、大翔ならきっと受け入れてくれるだろうって、勝手に思い込んでいた。 「綾人さん、大丈夫?」 「あ…、えっと…。城崎、ごめん…。」 「ううん。俺は大丈夫。」 「でも…。嫌な思いさせた。ごめん……。」 謝るばかりの俺を、城崎は抱きしめて優しく背中を摩る。 今日こそはって思ってたのに…。 情けないな…。 「先に大翔くんと話してきますか?」 「………うん。いいのか?」 「はい。俺はついて行かない方がいいですよね。」 「悪い…。」 城崎に背中を押され、階段を上がり、大翔の部屋の前に立つ。 ノックをしても、いつもの明るい返事は聞こえなかった。 「大翔、話がしたい。」 「……………」 「ちゃんと話してなくてごめん。大翔なら、俺がどんな人を連れてきたって受け入れてくれるって、勝手に思ってたんだ。そりゃびっくりするよな、恋人が男なんて…。」 「……………」 「でもな、俺はあの人のことすごくすごく大好きなんだ。だから、大翔にも紹介したい。城崎のこと知ってほしいんだ。」 「…………知ってる。」 やっと返ってきた大翔の返事は意外なものだった。 大翔の言葉に耳を傾ける。 「前に兄さんが言ってたじゃん…。世界で一番好きって。だから、兄さんがあの人のこと大好きなのは分かってるよ。帰ってきた時の表情見たらわかる。僕が何年兄さんのこと見てきたと思ってるの?」 「大翔…」 ガチャ…とゆっくりドアが開いた。

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