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第877話

大翔は俯いたまま俺の腰に手を回した。 「僕じゃダメ?男でもいいなら、僕だって兄さんと一緒にいたい…。小さい頃からずっとずっと大好きだったのに…。ぽっと出の男に兄さんのこと取られるなんて嫌だ…。」 「大翔……。前も言ったけど、大翔のそれは…」 「なんで?兄さんに感じてる好きは、兄さんがあいつに感じてるのと違うの?一緒だよ…。好きなんて、みんな一緒!」 正月に帰ってきた時、大翔はわからないと言っていた。 大翔は恋愛経験がないらしい。 だから、俺に対する好きって気持ちが、恋愛なのか家族に対するものなのか、違いがわかってないんだと思う。 「綾人さん、ちょっといいですか?」 「!!!」 「城崎…」 「ごめん。邪魔するつもりはなかったんですけど、埒が明かなさそうだったから。」 階段を上がってきたのは城崎だった。 城崎は俺に抱きつく大翔の指を解き、自分の方に俺を抱き寄せた。 「大翔くんだっけ?」 「な、何するんだよ!」 「綾人さんはあげない。君でしょ?俺の綾人さんにキスマーク付けたの。」 「はぁっ?!」 今言うことか?! つーか、家族の前で抱きしめるとか何してんだよ!! 「兄さんから手を離せ!」 「嫌。綾人さんは俺にこうされるの好きなんだよ。」 好きだけど。 でも今じゃないじゃん!! 大翔もめちゃくちゃ城崎のこと睨んでるし、これじゃ火に油だよ、バカ…。 「城崎、何考えて…」 「いいから。」 止めようとすると制される。 本当、何考えてんだよ…。 大翔はなんだか泣きそうになっちゃってるし。 「大翔くん、お兄さんにキスできる?」 「は…、はぁっ?!できるし!!」 「じゃあ、してみて。」 「ちょ、城崎?!」 城崎に背中を押され、大翔の目の前に立つ。 大翔は思い詰めた顔をした後、俺の両肩を持って背伸びする。 どんどん顔が近くなってきて、俺はこのままキスをされるのかと目を閉じた。 くると思った感触は、待っていても来なかった。 ゆっくりと目を開けると、俺の唇の前には城崎の手があった。 「はい。ストップ。」 「ちょ…、邪魔すんなよ!!」 「大翔くんさ、"したい"じゃなくて"できる"でしょ?」 「はぁ?」 「大翔くんが綾人さんに感じてる"好き"って気持ちは、綾人さんの言う通り、家族に対する好意だよ。」 「そんな……」 「綾人さんも大翔くんが好き。でもそれは家族への愛だよ。君のも一緒。」 城崎はズバッと言った。 言葉だけじゃ納得しなかった大翔が、言い返さずに口籠もっている。 「もし本当に誰かを好きになって、その気持ちと綾人さんへの気持ちが変わらないっていうなら、俺のこと殴っていいよ。」 「は?」 「あのときおまえのこと信じたから、綾人さんと歩む未来を潰されたって。俺のこと殴ればいい。」 城崎の言葉に、大翔は不審な顔をする。 城崎の言ってることは分かるんだけど、恋愛未経験の大翔には難しいんじゃ…。 そう思ったけど、大翔は俺から手を離して城崎に尋ねた。 「そしたら…、あんたは僕に兄さんのこと譲ってくれるのかよ…?」 「はは。無理でしょ。絶対譲らない。」 「何だよそれ!聞いて損した!!」 「はいはい。じゃあ俺の自己紹介するから下降りてきてね。」 「誰が行くかよ、バァ〜カ!!」 大翔はぷくーっと膨れて怒っていた。 でも、なんだかさっきよりは距離が近くなった気がする。 階段を降りながら、城崎に話しかける。 「城崎、ありがとな。」 「どういたしまして。でも一生綾人さんのこと譲る気はないですからね♡」 チュッと頬にキスされて固まっていると、城崎は一足先に階段を降りて行った。

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