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第878話

「父さん、母さん。お待たせ。今いい?」 「綾人っ!遅いからお茶が冷めちゃったじゃない!」 「ごめんごめん。城崎、入って。」 居間に入ると、母さんが既に人数分お茶を準備して待ってくれていた。 城崎は父さんと母さんに自己紹介をする。 「改めまして、綾人さんとお付き合いさせて頂いております。城崎 夏月と申します。よろしくお願い致します。」 「ね、あなた!俳優さんみたいでしょ?」 「あぁ…。本当にイケメンだね…。百合、頼むから目移りしないでくれよ?」 母さんは目をキラキラさせて城崎を見つめている。 うん。わかる。わかるよ、母さん。 俺も初めて城崎のこと見た時、芸能人かと思ったもん。 「城崎くん、はじめまして。綾人の父の望月 信人(のぶと)です。」 「妻の百合です。」 「立ち話もなんですから、どうぞお座りになってください。」 父さんに促され、椅子に座る。 城崎は座る前に母さんに手土産を差し出した。 「失礼致します。こちら、良かったらお召し上がりください。」 「まぁ!ここのお菓子食べたかったの!綾人ったら全然買ってきてくれないんだもの!」 「え?いつ言ってた?」 そんなこと言ってたっけ? やべー。全然覚えてねぇや。 「二年前くらいに頼んだのに買ってきてくれないから、もういいってなっちゃってたのよ。ありがとう。」 「僕も好きなんですよ。喜んでいただけて良かったです。あと、これとこれと、これも…」 「えぇっ?こんなに買ってきてくれたの?」 四次元ポケットのように手土産を出し始める城崎を見て、母さんは目をパチクリさせた。 つーか、城崎が眩しい…。 城崎が営業の時の数倍輝いてる気がする…。 その爽やかキラキラオーラは一体どこから溢れ出てくるんだよ。 しかも、僕って…。 完全に他所行きモードじゃん。 「城崎くん、ありがとう。それにしても格好いいわねぇ…。本当に相手が綾人でいいのかしら?」 「僕の方が綾人さんじゃないとダメなんです。大切な息子さんなのに、相手が僕でガッカリされましたよね…。」 「どうして?褒めてるのに。」 「反対されていたとお聞きしたので…。あの、お父様、お母様。お会いして早々、誠に恐縮ですが、真剣なお話をしてもよろしいでしょうか?」 城崎は椅子から降りて、床に正座した。 真剣なトーンに、俺も慌てて城崎の隣に正座する。 「これからも綾人さんの恋人でいたいんです。どうしても、お二人には認めて頂きたいんです。綾人さんと一緒にいる許可をください。お願いします。」 城崎は頭を下げた。 まさか来て早々この話をするとは思わなかった。 でもそれだけ城崎は、両親に会うことの意味を真剣に考えてくれていたんだと思う。 「僕たちは世間一般的に見て、祝われるような存在じゃないかもしれません。でも、僕には綾人さんしかいないんです。」 「城崎くん…」 「必ず幸せにします。幸せにする自信があります。」 まるで誓いの言葉のように、心に響く。 嬉しい。 城崎の真剣な眼差しから目が離せなかった。 「あのね、城崎くん…。あなたの言う通り、私は初めは反対してたの。自分の子が周りからどんな白い目で見られるかって、想像しただけで辛かったわ。でもね、綾人が決めた人生だから、認めることにしたのよ。綾人もあなたじゃないとダメみたいだから…。」 「周りから何を言われようと僕が守ります…と言いたいところなんですけど、全部から守り切ることは難しいかもしれません。でも、綾人さんが一人で傷つかない様に、僕が側で支えます。」 「城崎…」 城崎は俺を見て、ギュッと手を握った。 安心しろって、言葉がなくても伝わってくる。 「城崎くんも真剣に綾人のことを思ってくれているのが伝わったよ。城崎くん、顔を上げて。」 「はい。」 「私も百合も、今日君に会えることをすごく楽しみにしていたんだ。短い間だけど、ゆっくりくつろいでいきなさい。」 「ありがとうございます。」 「じゃあ今からは、二人の馴れ初め話でも聞こうかな?」 「えっ?!」 「是非!!」 父さんが冗談混じりにそう言って、俺は恥ずかしいからあまり話したくないのに、城崎は食い気味に返事した。

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