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第880話

「綾人さん?」 「ちょっとトイレ行ってくる。」 「わかりました。」 言葉にされると恥ずかしくなって、俺はリビングを後にする。 廊下に出ると大翔とばったり出会った。 もしかして入るタイミングを伺っていたのだろうか。 「大翔、城崎のこと少しは認めてくれた?」 「………。」 「本当にいい奴なんだよ。きっと大翔のこともすげー大事にしてくれると思うんだ。」 「別に俺は大事にされなくてもいいし…。」 「また後でゆっくり話してみてよ。大翔もきっと気にいると思うんだ。」 大翔の頭を撫で、その場を後にする。 用を足して戻ってくると、大翔はもういなかった。 リビングに入ろとすると、中からの会話が聞こえて、俺はドアを開けず聞き耳を立てた。 「城崎くん、綾人はどう?私たちの前じゃ、いつもしっかり者だから…。頼りになるんだけど、その反面悩んでても私たちに話してくれないことも多くて…。最近私を説得するために帰ってきてた時もすごくやつれてて…。だから心配で仕方ないの…。」 母さん、そんな心配してくれてたんだ…。 帰ってきてた時って、城崎と距離を置いてた時だもんな…。 自分でも元気がないの分かるくらいやつれてた。 後半は母さんに認めてもらえないのも大きな要因だったけど…。 「お母様、すみません。そのやつれてた原因、俺です。」 「え…?」 「綾人さんがご両親に説得に行ってくださっている時、実は綾人さんと僕は距離を置いていたんです。すれ違いだったんですけど、あの時は綾人さんの心に大きな負担をかけてしまいました…。本当に後悔してるんです…。必ず幸せにするって、どの口が言ってんだって感じですよね…。」 「そうだったの…。」 自分がマイナスになることなんて隠しておけばいいのに…。 きっと、そういうのまで知った上で、城崎は父さんと母さんに認めてほしいんだ。 「でも城崎くんがいないと、綾人はまたあんな状態になっちゃうってことだもんね。距離を置いてても、勝手に私達を説得しに来るくらいなんだから…。」 「もう絶対に悲しい顔はさせません。僕が綾人さんを笑顔にします。」 「ふふ。ドラマの台詞みたいで、ますます俳優さんっぽく見えちゃうわね。」 ふぅ、よかった…。 少し和やかな雰囲気に戻ったらしい。 つーか、何? 俺のいないところでもあんなこと言って…。 好き……。 今すぐ城崎に抱きしめてほしい…。 「あの子とても強がりでしょう?城崎くんより歳も上だし、甘えてこなくて可愛げないんじゃないかしら?」 「そんなことないですよ。たしかに綾人さんは、すごく頼もしくて、僕がつい頼ってしまうことはありますけど…。でも、家では甘えてくれるし…」 「「えっ?!」」 ガタタタンッ!! やっべ……。 動揺しすぎて物音を立ててしまった。 ドアが開いて、ドアの前に佇む俺を見下ろして、城崎はキョトンとしている。 「よ、よぉ…。」 「綾人さん、戻ってたんですか。遅いと思ったら。もしかして盗み聞き?」 「い、今帰ってきたんだよ!!」 「ぎゅーしてあげましょうか?」 「っ!!しなくていい!」 俺の顔が赤いのをみて、聞き耳を立てていたんだと察した城崎は、ニヤニヤしながら俺を揶揄う。 言い訳してリビングに入ると、物珍しそうな顔で父さんと母さんに見つめられた。 「あんた天邪鬼だったのね…。」 「!!」 親に見せたことのない自分の姿を見られ、恥ずかしくて固まってしまった。

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