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第883話
夕食の買い出しはすぐに終わった。
城崎が迷うこともなく、カゴに食材を入れていったから。
やっぱりあの"初めて行くから迷う"発言は嘘だったのだとよく分かった。
「城崎は何作るの?」
「肉じゃがで勝負しようかと思いまして…。」
「いつものオシャレな料理じゃなくて?」
「家庭料理の方が印象良くないですか?」
「そうかなぁ…?」
まぁ城崎の料理はなんでも美味いからいいんだけど。
家に着いて、車から降りようとする城崎の腕を引く。
体勢を崩した城崎に不意打ちでキスをした。
「…!!」
「料理…、期待してるから。母さん達のこと驚かせてよ。」
「任せてくださいっ!」
城崎は軽い足取りで家に入っていった。
後から追いかけるように家に入ると、城崎は既にキッチンで母さんと談笑しながら料理の支度を始めていた。
「やっぱり初めての場所は迷ったかしら?」
「あはは。いい食材が多くて選ぶのに時間かかっちゃいました!あと緊張して、何作るか迷っちゃって…。」
適当なこと言ってる。
にんじんとかじゃがいもとか、選んでるのかと疑問になるくらいすぐカゴに入れてたくせに。
「あら。城崎くんすごい!いいのばかり選んできてるじゃない!」
「本当ですか?よかったです。」
は?!
あの一瞬で?
運だけだろ、絶対。
「綾人さんの口に出来の悪いものを入れたくないので、普段から見る目を鍛えてるんです。」
「まぁ…///」
何言ってんの…!?
ツッコミそうになったけど、城崎のあんな笑顔見てたら怒るに怒れないし、両親からはニヤニヤ笑いを含んだ目で見られるし、もう……。
「綾人は愛されてるんだな。」
「そうだよ。悪いかよ。」
「ははは。父親にまで照れるなよ。」
「う〜……。」
リビングが完全に城崎の空気に支配されて、俺までいつも通り。
親の前ではしっかりした俺でいたかったのに。
でも父さんも母さんも、心なしかいつもより嬉しそう。
「いい匂いがしてきたな。百合、夕食はいつ頃だい?」
「もう。あなたったら気が早いわよ。まだ17時よ?」
「こんな匂い嗅いでたら腹も減るよ。なぁ、綾人?」
「そうだね。」
ぐぅ…と腹の虫が鳴く。
リビングにいたら腹減って死にそうだ。
「ちょっと大翔の勉強見てくるよ。」
「おー。あいつも今は根を詰めてるだろうからな。邪魔しないようにな。」
「分かってるよ。」
城崎は俺の両親ともすっかり打ち解けてるし、俺がいなくても問題ないだろう。
心配なのは大翔だ。
朝の一件で、勉強に集中できてなかったらどうしよう。
高校生最後の夏休み。
楽しみたいだろうに、必死に受験勉強頑張ってるんだ。
今回の俺の帰省は大翔にとってストレスだったかもしれない。
紹介するタイミング間違えたかな…。
頭を悩ませながら階段を上がり、大翔の部屋の前に立った。
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