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第884話

コンコンとドアをノックする。 「大翔、俺だよ。入っていい?」 「…………兄さんだけ?」 「うん。俺だけだよ。」 しばらくして、ほんの少しだけドアが開いて、隙間から覗き見るように大翔が俺を見つめた。 周りを見て、城崎がいないことを確認してドアを開ける。 「そんな警戒しなくても。」 「あいつ嫌い…。」 「いい奴だよ?」 「兄さんのこと取るんだもん…。」 「あはは…。」 否定はできない。 笑って濁すと、大翔はまた、むーっと頬を膨らませる。 「勉強見ようか?」 「うん。」 「どこが分かんない?」 「ここ。」 大翔の指差す問題を見る。 うわ…、ムズ……。 聞いたはいいけど答えれる自信ないや。 「大翔、俺もこれ分かんないや。解説は?」 「解説も難しい。」 「ん〜……。たしかに難しいな…。」 二人で解説を見ながら唸っていると、コンコン…とドアがノックされた。 「綾人さん、夕食の支度できましたよ。」 「はーい。大翔、先にご飯食べよっか。」 「………いらない。」 「俺も作ったんだけどな〜…?」 嘘だけど…。 大翔が食べないよりかマシだろ。 「食べる!!」 「先降りておいで。」 「はいっ!」 大翔は城崎の存在が見えてないかのように通り過ぎて、一足先にリビングへ降りていった。 取り残された城崎は部屋に入ってきて、俺と大翔が見ていた問題集を見つめる。 「勉強教えてたんですか?」 「あぁ、うん。でもこの問題分かんなくて…。解説も難しくてさ…。」 城崎はペラペラとページを捲って首を傾げる。 「W大の赤本?」 「え?うん。」 「やっぱり。うわ、懐かしい。これ俺が受験した時の問題だ。」 「えっ?!城崎ってW大だっけ?!」 「はい。W大の経済学部卒ですよ。」 高学歴かよ。 てか、W大の経済学部?! 「なんで証券会社とか銀行じゃねぇの?!」 「なんとなく?」 「勿体ねぇじゃん!」 「でもSコーポレーションも大手じゃないですか。それに、この会社に入らなきゃ綾人さんと出会えてなかったわけだし。」 嘘だろ……。 優秀なのは分かってたけど、まさかそこまでエリートだったとは…。 「惚れ直しました?」 「ずっと惚れてるよ…。」 「えへへ〜♡てか、大翔くん志望校W大なんですか?」 「うん、そうみたい。城崎、この問題分かる?分かるなら大翔に教えてあげて欲しいんだけど…。」 「もちろん。綾人さんの頼みなら喜んでお引き受けします♡」 うぅ〜…。 俺の彼氏最強に格好良いんですけど…。 溢れそうな気持ちをぎゅーっとハグして紛らわせた。

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